伊藤 一寿
昨年9月7日に月着陸機「SLIM(スリム)」を載せたH-IIAロケット47号機が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。
SLIMのミッションでは着陸機自身のエンジンと限られた推進剤で月へ向かうために、飛行時間が長くなる代わりに推進剤の消費量が少ない軌道を採用しました。地球を周回する楕円軌道に一旦投入され、10月4日に月の近くを通過する際に月の重力を利用して軌道変更し月へ向かい、今年1月20日未明に月面への着陸に成功しました。月着陸に成功した国ほそれほど多くなく、米国と旧ソ連、中国、インドに続く5番目になります。
日本のロケット開発は1969年米国アポロ計画による有人月着陸成功直後に発足した宇宙開発事業団(NASDA)の下で始まりました。静止衛星打ち上げが可能なNロケットの開発がアメリカの技術援助を受けて開発され、1975年9月に初号機の打ち上げに成功します。その後、部品材料すべて国産品を用いたH-IIロケットを1994年に開発、続いてこれを半額にコストダウンしたH-IIAロケットを開発し2001年に打ち上げに成功しました。2003年からはNASDAの後継法人の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工が開発や運用を引き継ぎ、H-IIAロケットはこの20年余り日本の宇宙利用の中核を担ってきました。今年になって48号機の打ち上げが行われましたが48回のうち失敗は1回のみで、成功率98%と世界最高レベルの信頼性を誇っています。しかし打ち上げコストが100億円と高く、政府衛星以外の商業打ち上げは5回にとどまり、ビジネスとしてはうまくいきませんでした。
現在のところ衛星打ち上げ市場はイーロン・マスク氏が率いるスペースXの一人勝ち状態となっています。主力のファルコン9ロケットの打ち上げコストは65億円と他と比べると安く、2022年は毎週のように運用、61回打ち上げてすべてのミッションに成功したそうです。H-IIAロケットが20年かけて積み上げた打ち上げ数を1年とかからずに達成しました。
このような状況の中、日本では商業衛星市場において世界で競えるよう、25年ぶりにフルモデルチェンジとなるH3ロケットを開発中です。部品を1/3に減らし構造をシンプルにすることによりコストを半分に減らし、かつ安全性も向上させるのだそうです。昨年3月に行われた初号機の打ち上げは残念ながら失敗に終わりましたが、この会報が発行される頃には2回目の打ち上げが終了している予定です。開発を温かい目で見守りたいと思います。
(令和6年2月号)