髙橋 美徳
例年3月には道路脇の雪が消えて、自転車に乗れるようになる。そして単車や自転車事故の受診が増えてくる時期でもある。
交通事故発生件数は年々減少しているにもかかわらず、自転車事故が全交通事故に占める割合が増加し続けていること、頭部をヘルメットで守ることで致死率が下げられることを受けて、令和5年4月1日から道路交通法が改正されて乗車用ヘルメット着用が努力義務化された。新潟県は令和4年4月1日「新潟県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」を施行し、10月1日から自転車損害賠償責任保険加入を義務化した。条例の第15条には、改正道路交通法に先駆けて、ヘルメット着用を推奨と記載されているのだが、令和5年7月の全国一斉調査では新潟県の着用率は2.4%と全国最低(全国平均13.5%、最高愛媛県59.9%)というなんとも残念な結果であった。
着用率が上がれば問題解決に近づくだろうか?路上には危険がいっぱいだから、ヘルメットで身を守ることが望ましいことに異論はない。しかし自転車大国オランダではサイクリストを守ってくれる交通ルールと自転車用に設計されたインフラのおかげで、ヘルメットはかぶらない傾向にあるそうだ。信濃川と阿賀野川が作った沖積平野にある新潟市とライン川下流域で干拓によって国土を拡大したオランダは、両者ともほぼ平坦な地形が特徴で自転車走行に向いている。1971年オランダでは自動車の飛躍的な増加とともに交通事故死亡者も著しく増加したため、安全なサイクリング環境を求める社会活動が起こった。その上石油輸入危機が追い打ちをかけたため、オランダ政府は自動車中心の道路建設計画をやめ、自転車専用道路の巨大ネットワークを構築することにした。日本は2度に渡る「交通戦争」と呼ばれる交通事故の急増を経験しても、自転車専用道路をつくるという施策は採られなかった。道路左端にブルーレーンが設けられても、自動車優先道路と感じるのは、自動車産業が日本の経済を支える基幹産業であり続けていることが原因だろうか。
令和4年から警察庁は主に都市部で自転車の交通違反者に警告を行うようになり、令和6年には自転車通行にも青切符や赤切符を切る道路交通法改正が予定されている。今にも事故を誘発しそうな逆走や信号無視といった無謀な自転車乗りを時々見かけるので、自転車乗りに交通法規遵守を促すことが必要なのは言うまでもないだろう。しかし、それにも増して自動車の運転者には歩行者優先、自転車乗りも大切にする気持ちを持って余裕のある運転をしてほしいと思う今日このごろである。
(令和6年3月号)