総括医長 滝沢 一泰
当教室(講座)は、100年を超える外科学教室の伝統を受け継ぎ、消化器・乳腺・内分泌外科のさらなる発展に邁進し、3つの“R”:residual遺残腫瘍ゼロ、recurrence術後再発ゼロ、regional medicine地域医療をスローガンとして掲げ、臨床・研究・教育に取り組んでおります。基礎的研究により癌の進展様式・分布および“微小転移巣”の実態を解明し、腫瘍学的見地から根治性を向上させた術式を考案し、一貫して「術後の再発、癌遺残の根絶方法を開発して世界に発信する」という一念で研究を行っています。医学研究では、臨床における未解明な問題点を明らかにし、基礎研究とデータの積み重ねが重要です。研究志向を持ち、すべての研究は遠い将来であっても必ず臨床にフィードバックされるべきであると信じています。医学研究を通じてエビデンスを創出し、世界へ向けて研究成果を発信し続ける人材の育成に貢献し、活気あふれる学問の場を提供し続けていきたい。そして、若手外科医の集まる魅力的な教室創りをし、若手を大切に育てていきたいと考えています。
臨床面に関しましては、諸先生方のご尽力により培われてきました当教室の手術成績の更なる向上を目指して日常診療に臨んでおります。食道・胃・大腸・肝臓・膵臓領域において低侵襲の鏡視下手術を取り入れつつ、根治性を追求したこれまでと同様の拡大手術も各領域において積極的に実施しております。ロボット支援手術(da Vinci)につきましても導入のための準備は整い、今年度中にも適応する症例がいましたら大腸領域から開始予定であります。一昨年度から再開した膵臓移植も継続して実施しております。
研究面に関しましては、患者さんに特有の癌遺伝子変異を網羅的にゲノム解析し最適治療法を見出すPersonalized Medicine・Precision Medicineを実現すべく、その整備に努めております。
教育面では、新外科専門研修プログラム制度が開始され、将来の外科医療を支える若手外科医の教育はもちろんのこと、学生や研修医の教育にも熱心に取り組んでいます。新潟県の医療のみならず、グローバル医療の担い手となるべく、医局員が一丸となってこれらの臨床・研究・教育を実践し、教室を盛り上げていきたいと考えております。
【研究グループ活動報告】
上部消化管グループは食道癌、胃癌および消化管間質腫瘍(GIST)の臨床・研究・教育の充実を目標に活動しております。食道癌に関しては、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の参加施設として術前治療や再発治療の臨床試験に参加し、先進的な医療を行っております。2015年からはPrecision Medicineを見据えた癌遺伝子パネル検査に関する研究にも着手し、多施設共同研究として胃癌や食道癌の遺伝子変異解析を行っております。胃癌・食道癌に対する鏡視下手術も積極的に取り入れており、標準術式として広く普及する将来を見据えて若手医師の育成を行っております。GISTに関しては遺伝子解析をはじめとする基礎的研究に加え、症例蓄積によるデータ集積および当科における集学的治療が評価されており、本邦におけるGIST治療の先進的な施設として情報を発信しております。
下部消化管グループは大腸癌と炎症性腸疾患を中心に臨床、研究に取り組んでいます。併存症が多く厳しい症例が急増していますが、その中でも低侵襲で合併症の少ない治療を目指しています。腹腔鏡補助下大腸切除においては、4人の技術認定医が在籍しており、若手医師の技術認定取得を視野にいれた指導に力を注いでいます。また、昨今の進行再発大腸癌に対する診断・治療の発展は目覚しいものがありますが、この領域をリードすべく、遺伝子解析を含めた診断治療戦略の確立を目指し、国内外でその成果を報告しています。炎症性腸疾患に関しては、当科におけるこれまでの実績をまとめ、さらに全国各施設とも連携をとり日本からのデータとして発信していきたいと考えています。また、最近注目されている腸内細菌叢と発癌、炎症性腸疾患との関連等について、新規研究を開始しているところです。
肝胆膵・移植グループでは、高難易度の疾患群へ対応すべく診療・研究に従事しております。肝癌に関しましては、腹腔鏡下肝切除が順調に導入され、その適応を徐々に拡大しております。胆道癌に関して、血管合併切除再建手術や肝膵十二指腸切除(HPD)にも適応を広げていくと同時に、再発症例に対する外科切除や進行癌症例に対する術前化学療法後の外科切除を積極的に行い、治療成績の向上に努めています。予後不良である膵癌の治療成績の向上を目指し、術前化学(放射線)療法を導入して集学的治療を実施しております。移植に関しましては、脳死膵移植を開始しており今後も継続的に行っていきます。また、肝移植医養成プログラム(SNUC-LT)にも参加しており、現在、肝移植の再開に向けて準備が整いつつあります。
乳腺内分泌グループでは、乳腺疾患を中心に診療・研究を行っています。乳癌患者数は年々増加しており、専門医の需要が非常に高まっていることから、若手の育成に積極的に取り組んでおります。昨今、新規分子標的薬の導入に関連して、BRCA遺伝子に変異がある遺伝性乳癌に対する関心が高まっております。当施設は遺伝性乳癌に対する遺伝カウンセリングや予防的乳房切除を実施できる体制を整え、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構より遺伝性乳癌卵巣癌総合診療基幹施設に国立大学として全国に先駆けて認定されました。また、新しい取り組みとして、米国NIH主導の国際臨床試験に参加し、症例の登録を行っております。研究面では、「脂質メディエーターと癌に関する研究」や「癌遺伝子解析に関する研究」を積極的に行い、国内外学会発表、論文発表、外部資金獲得など成果をあげています。高部和明先生が乳腺外科の主任教授を務める米国ロズウェルパーク癌研究所との共同研究も推進しており、プロジェクトを通じて若手医師の短期派遣など交流を深めております。
【最後に】
今年度も高い志を持った若者を新入医局員として迎えることができました。日本外科学会の新専門医制度が本年度から開始されましたが、今後も引き続き外科の魅力を発信して頂き、来年度も多くの入局者を迎えたいと考えております。大学人としての「臨床」「研究」「教育」の三本柱を充実させ、地域医療を守りつつ、世界に通用する研究、人材の育成を今後も継続していきたいと考えています。
(令和元年7月号)