総括医長 中枝 武司
新潟市医師会会員の皆様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃より腎・膠原病内科に格別のご厚情を賜り、深く御礼申し上げます。腎・膠原病内科学分野の近況についてご報告申し上げます。
2009年5月、成田一衛教授が第7代第二内科教授に就任し、今年で10年が経過しました。2015年2月、菊地利明先生を呼吸器・感染症内科教授に迎え、第二内科は発展的に改組しました。腎・膠原病内科と呼吸器・感染症内科に分かれましたが、今も外来業務の一部、当直業務、学生教育、同窓会、花見の会(新人歓迎会)、海開き、野球大会、新年会は合同で行っており、化学療法による薬剤性腎障害の予防に関する共同研究(後述)なども継続しています。
1973年に設立された腎研究施設が、2016年4月、組織改編により腎研究センターとして新たなスタートを切り、腎・膠原病内科学分野は腎研究センター臨床部門となりました。年3回程度、有壬記念館で腎研究セミナーを行い、それぞれの部門が研究成果を発表し、活発な議論を行うことで研究をさらに進展させています。新潟大学における腎臓関連の研究・教育・診療機能のさらなる充実を図るため、基礎部門、臨床部門、トランスレーショナルリサーチ部門が三位一体となり、腎臓病対策に取り組んでいます。
成田一衛教授は2017~2019年度厚生労働科学研究難治性疾患政策研究「難治性腎障害に関する調査研究」班の研究代表者に就任し、IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎の難治性疾患に移行医療を加え、疾患登録・調査研究および診療ガイドライン作成を開始するなど、順調に成果を上げております。また、腎臓病総合レジストリーの腎生検登録(J-RBR)と連携して腎生検組織のバーチャルスライドシステムの導入を決定し、運用を開始しました。2018年6月には第61回日本腎臓学会学術総会の総会長として、新潟での開催を成功裡に収めました。
腎・膠原病内科の外来診療は従来通り、慢性腎臓病、急性腎障害、高血圧、糖尿病、リウマチ・膠原病を中心とした分野をカバーしており、入院診療についてはグループ診療を継続しております。教育体制としては、当科をまわる初期研修医や6年生も各チームに配属され、いわゆる屋根瓦方式で指導を行っており、すべての指導医がより実りある研修・教育の実践を目指しています。
腎・膠原病内科学分野は、腎ゲノム分子生物学研究グループ、腎組織病理研究グループ、糖尿病性腎症・腎代謝研究グループ、慢性腎臓病病態研究グループ、リウマチ膠原病研究グループに分かれて専門性の高い基礎研究・臨床研究を行っており、研究テーマを共有した横断的な研究も行っています。
腎ゲノム分子生物学研究グループでは腎疾患の発症と進展の分子機構を解明し、病態の進展を阻止することを研究テーマとしています。当院耳鼻咽喉科の協力の下、IgA腎症、習慣性扁桃炎、小児扁桃肥大などの摘出扁桃を用いてメタ16S解析を行い、IgA腎症患者の扁桃細菌叢の特徴を報告しました(渡辺博文、後藤眞ら. 欧州腎臓学会誌, 2017)。また、抗糸球体基底膜抗体を導入された老化モデルマウスにおいて、ケモカイン受容体、Fcγ受容体の発現が低下し、マクロファージの浸潤が抑制されて腎障害が軽減されることを明らかにしました(金子佳賢ら. 米国老年学会誌, 2018)。
腎組織病理研究グループは、新潟県内の関連施設も含めた腎生検病理の診断を行い、病理診断に基づく新たな病態を研究しています。IgG4関連腎臓病では間質の花筵様線維化と腎被膜を超える細胞浸潤が特徴的であると報告しました(吉田一浩、佐伯敬子ら. 欧州腎臓学会誌, 2012)。また、福井大学との共同研究でIgM陽性形質細胞浸潤を伴う尿細管間質性腎炎という新しい疾患概念を提唱しました(高橋直生、佐伯敬子ら. 米国腎臓学会誌, 2017)。
糖尿病性腎症・腎代謝研究グループは、腎代謝の面から糖尿病の病態・合併症を捉え、近位尿細管細胞のエンドサイトーシス受容体メガリンの解析を基盤にして糖尿病性腎症などの病態解明に取り組んでいます。高脂肪食負荷による糖尿病性腎臓病モデルマウスにおいて、メガリンが脂肪酸含有タンパク質などの腎毒性物質を取り込み、尿細管から糸球体に至る慢性障害を引き起こすことを明らかにしました(桑原頌治、細島康宏ら. 米国腎臓学会誌, 2016)。また、呼吸器・感染症内科との薬剤性腎障害の共同研究では、アミノグリコシド、バンコマイシン、シスプラチンなどの腎毒性薬物による腎障害動物モデルにメガリンが関与し、メガリン拮抗薬シラスタチンで予防しうることを報告しました(堀好寿、青木信将、桑原頌治ら. 米国腎臓学会誌, 2017)。機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授は「メガリンを標的とした腎機能温存・再生療法の開発」が国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の2016年度~2018年度腎疾患実用化研究事業に採択され、また、2019~2021年度も「メガリンをターゲットにした急性腎障害および慢性腎臓病の創薬研究」が唯一連続して採択されました。病態栄養学寄附講座の細島康宏特任准教授はコメ蛋白に着目し、維持血液透析患者に対するコメ蛋白補充の有用性を報告しました(細島康宏ら. Scientific Reports, 2017)。
慢性腎臓病病態研究グループは、慢性腎臓病とそれに合併する多彩な病態についての研究を進めています。血液浄化療法部の山本卓准教授は「尿毒症物質に着目した慢性腎臓病関連疾患の病態解明と治療」で日本腎臓学会の2016年度学会賞(大島賞)を受賞しました。また、透析アミロイドーシスの前駆蛋白であるβ2ミクログロブリンのアミロイド線維形成の機序を大阪大学蛋白質研究所との共同研究で明らかにしました(Zhang CMら. 米国科学アカデミー紀要, 2019)。地域医療長寿学寄附講座の若杉三奈子特任准教授は、様々な臨床研究を行い、透析患者の大腿骨近位部骨折発症率が近年女性患者で低下していることを報告しました(若杉三奈子ら. Am J Kidney Dis, 2018)。腎医学医療センター寄附講座の丸山弘樹特任教授はファブリー病診断においてグロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)が一次スクリーニングに有用であり(丸山弘樹ら. Genet Med, 2018)、ファブリー腎症モデルマウスで腎髄質のヘンレの太い上行脚が障害されることを明らかにしました(丸山弘樹ら. FASEB J, 2018)。
リウマチ膠原病研究グループは、リウマチ膠原病患者に関する種々の臨床研究を行っています。関節リウマチ患者に続発するAAアミロイドーシスは、原発性のALアミロイドーシスと異なり、アミロイド沈着領域量が腎機能と相関することを報告しました(黒田毅ら. Amyloid, 2017)。また、長期にステロイドとビスホスホネートを内服する膠原病患者では非定型大腿骨折のリスクがあることを明らかにしました(佐藤弘恵ら. Osteoporosis Int, 2016, 2017)。2019年3月、長きに渡りリウマチ膠原病グループを率いてこられた保健学科の中野正明教授が定年で退任されました。
以上、腎・膠原病内科学分野の近況を報告致しました。今後も全人的医療、良医育成、専門的研究を継続してまいる所存です。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。
(令和元年7月号)