曽根 博仁
医師会の先生方には、平素より大変お世話になっております。旧第一内科を源とし7年目を迎えた、私たちの教室の最近の活動についてご報告させていただきます。
教室の現状と雰囲気
教室は3つの寄付講座を含む大所帯となり、毎年新しい仲間が増え続けています。メンバーは教員24名を含め、本年ついに100名を超えました。
当科の雰囲気をよく伝えるのは、臨床実習の学生さん達が異口同音に「この科の回診やカンファレンスでは、教授だけでなく若い先生たちも積極的に意見を言って盛り上がるのが、とても新鮮だった」と言うことです。これはまさに、私が教室をお預かりした時に目指したことなので大変嬉しいことです。
実際に私たちの回診は「筋書きのないドラマ」です。一人ひとりの患者さんとその環境に最適な治療を目指して、研修医も指導医も参加した熱いディスカッションが繰り広げられており、一方通行の指導ではありません。「建前」や「型どおり」、「通り一遍」でなく、「患者さんのために今の我々にできる最大限のことは何か」が真摯に追及されています。このことは、医学判断だけでなく心理社会面も考慮し、各患者さんの健康寿命と生き甲斐を最大化することを目指す現代医療において、とても重要であると思っています。
研究活動
研究については、統一テーマで縛らず、各教室員の興味と自由な発想を尊重し、基礎から臨床まで多彩な研究を同時進行させています。特徴的なテーマとしては、医療データサイエンスとその実地応用研究が挙げられます。従来タイプの臨床疫学から最先端のビッグデータ解析とその実地応用を含み、「宝の山」である医療データからエビデンスの原石を発掘・研磨し、小児から高齢者までが「元気に育ち、元気に働き、元気に老いる」ための、「現場に役立つ科学的エビデンス」に仕上げる作業に、多くの若い教室員が夢中で取り組んでいます。糖尿病学では世界最高峰の米国糖尿病学会における当教室からの発表数は20本を超え、一教室として世界一を達成しました。最新の内外ガイドラインにおいても、我々が樹立したエビデンスが数多く採用されており、世界の実地医療に貢献するという目標を達成しつつあります。
地域医療への貢献
地域医療への貢献も着実に充実させています。血液疾患分野については、続々と登場する分子標的薬や免疫療法などを始めとする造血器腫瘍診療の目覚ましい進歩に対応するため、造血幹細胞移植が可能な拠点に専門医を集中配置しています。これにより県内において、白血病やリンパ腫、多発性骨髄腫などの世界水準での治療が可能となっています。
一方、内分泌代謝疾患分野については、人口当たり専門医数が全国最低レベルという状況下にあっても、コントロール難渋糖尿病や肥満、二次性高血圧、内分泌疾患などについて専門医診療にアクセスできる地域を増やすため、外来・常勤派遣先の多拠点化を進めています。現在、教室からの派遣・出張医による糖尿病外来を擁する医療施設は、すでに県内35か所にも達しています。
また大学病院でも、両分野とも毎日外来を2診以上設け、教授から教室員まで昼食も食べられないほどの忙しさで頑張りながら、先生方のご紹介を広く受けられる体制を維持しております。
このような地域医療を支えていく態勢については今後とも充実させていきたいと思っていますので、お気軽にご紹介をいただければ幸いです。
社会との連携や貢献
特に糖尿病・生活習慣病分野は、診療や研究の成果を、市民啓発や政策立案を含めて社会に還元するために、自治体やマスコミ、患者団体などとも協力して様々な取り組みが行われています。
①大学病院における糖尿病・生活習慣病教室
本誌でも以前詳しく紹介しましたが(下記参考文献および図1参照)、糖尿病を始めとする生活習慣病患者さんやそのご家族を主な対象に、食事・運動療法を始めとする治療についてわかりやすく解説する教室を行っております。これは当院患者さんのみならず、先生方の患者さんも含め、どなたでも無料で受講できるようになっていますので、境界型の方も含め、ぜひ多くの方にお勧めいただければ幸いです。内容や最新スケジュールは大学病院HPをご覧ください。
②「新潟県版糖尿病患者向けテキスト」
①に来られない患者さん向け、あるいは一般医家の先生方が患者さんに配布していただけるように、糖尿病患者さんが最低限知っておくべき内容をわかりやすくまとめた「新潟県版糖尿病患者向けテキスト」を作成し、県外の先生方からも好評を博しております。カラーイラストを多用し、各ページが独立した作りになっていますので、待合室ポスターなどにもご活用いただけるようになっております(図2)。こちらについては、「公益財団法人新潟県健康づくり財団」のHPから無料でダウンロード、印刷できるようになっています。
③糖尿病早期発見、受診勧奨、通院中断予防などに関する啓発活動
新潟県糖尿病協会などと協力して、毎年11月14日の世界糖尿病デー付近の日程に、NEXT21で「糖尿病を知る集い」、新潟駅で「無料HbA1c測定会」などを行っており、未診断患者さんの発見にもつながっています。また小児科の先生方と協力して1型糖尿病患者さんの会なども開催しており、専門医を目指す若い教室員が献身的に運営してくれています。
おわりに
このように血液分野、内分泌代謝分野が一丸となって、医学教育、地域医療、研究に取り組んでおりますので、会員の先生方からも、引き続きご支援ご指導の程よろしくお願い申し上げます。
参考文献
山田貴穂、曽根博仁.糖尿病診療における患者教育と療養指導─新潟大学医歯学総合病院 糖尿病・生活習慣病教室の紹介─.新潟市医師会報.547; 2-6, 2016
図1 大学病院の糖尿病・生活習慣病教室のスケジュール表
(最新版は大学病院HPよりダウンロードしてください)
図2 新潟県版「患者向け糖尿病テキスト」
(新潟県健康づくり財団HPより全文ダウンロード可能、印刷・配布自由)
図3 毎年新潟駅などで行われる市民向け啓発活動「無料HbA1c測定会」の様子
(令和2年1月号)