総括医長 星井 達彦
はじめに
新潟市医師会会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。また、日頃から当教室に格別のご厚情を賜り、深謝申し上げます。当教室の歴史及び現在行っております診療内容に関しまして、この場をお借りし、ご紹介したいと存じます。
当教室の歴史について
明治45年5月に、第二外科学を担当された杉村七太郎教授が泌尿器科学および皮膚科学の講義を始められたことに端を発します。その後、大正5年2月から昭和2年7月までの11年間、高橋明教授が皮膚泌尿器科学教室を主宰し、昭和3年4月から昭和24年4月まで橋本喬教授が引き継がれました。昭和24年学長に就任された橋本教授は、両科の分離独立の必要性を強調され、昭和25年1月に東京大学の楠隆光助教授を初代教授として迎え、第三解剖学講座を拝借し、単科としての泌尿器科学教室を創設しました。楠教授は日本泌尿器科外科の草分けとして「腎移植」、「腎部分切除術」、「腸管による代用膀胱」など多くの手術を開拓され、昭和31年12月に大阪大学の講座新設とともに転出されました。その後、東京大学泌尿器科の高安久雄助教授が2代目教授として昭和32年2月に就任されました。高安教授は「急性腎不全」、「前立腺癌を中心とした内分泌学的および電子顕微鏡的研究」など数多くの業績を残され、 昭和38年5月に東京大学へ転出されました。昭和38年7月に助教授の佐藤昭太郎先生が3代目教授に就任されました。その頃から医局員も増え、学会発表及び論文発表等を数多く行い、昭和62年5月には「第75回日本泌尿器科学会総会」の会長に選出、会長講演で「尿路形成術」の講演をされました。佐藤教授は平成6年3月までの31年間泌尿器科学教室を主宰され退官されました。平成7年1月に東京女子医科大学助教授の高橋公太先生が第4代教授として就任されました。高橋先生は専門分野である腎移植を中心に活躍され、脾臓摘出を行わないABO血液型不適合腎移植の確立など、平成26年3月に退官されるまで、腎移植分野において数々の業績を挙げられました。平成27年1月に山形大学医学部泌尿器科教授の冨田善彦先生が第5代教授として着任しました。冨田先生の専門は泌尿器科腫瘍ですが、ロボット補助下手術、腹腔鏡下手術、また、排尿障害、排泄ケア、腎移植等泌尿器科一般についても業績を上げてこられました。冨田先生が着任以降、現在当教室は、泌尿器癌、低侵襲手術、腎移植、小児泌尿器といった四つの分野を軸として臨床・研究を行っております。
泌尿器癌について
泌尿器癌におきましては、これまでも当教室の臨床・研究分野の中心として行ってまいりました。最近では、本庶佑博士のノーベル賞受賞で脚光を浴びた免疫チェックポイント機構において、その阻害剤をはじめとして様々な新規薬剤が登場し、治療選択の幅が広がりました。当教室は、この免疫チェックポイント阻害剤を中心に直近4年、国際共同治験を中心に20以上の臨床試験を実施(国内最多)し、成果はNEJM 2報、Lancet Oncology 2報など(いずれも共著)進行性腎細胞癌では日本のリーダーシップをとっております。
低侵襲手術について
低侵襲手術におきましては、そもそも腹腔鏡手術において、平成4年に世界初の副腎摘除術を成功させた実績があります。
それ以外にも内視鏡下で結石手術や前立腺肥大症手術、膀胱癌手術を多く手がけてきました。最近では、前立腺癌に対するロボット支援下前立腺摘除術を新潟県内で随一の手術数(令和元年5月まで累計270症例施行)実施しており、平成28年から小さな腎癌に対する腎部分切除術も症例に応じてロボット支援下で行っています。現在ロボット手術を行える有資格者は5名おりますし、腹腔鏡技術認定医の数も着実に増え、昨年度の合格者も4名でした。
腎移植について
腎移植におきましては、昭和31年にわが国最初の腎移植を実施した歴史があり、県内において腎移植を施行できる唯一の施設であります。その件数は通算500例であり、先にも記しましたが、前教授の高橋公太名誉教授がライフワークとしていたABO血液型不適合腎移植では平成16年にわが国で初めてリツキシマブ併用にて脾臓摘出を回避出来ることが示されました。小児腎移植・二次移植・長期透析例等の高難度移植も多数実施しており、県内で通算70件以上の脳死・心停止下臓器提供症例にも関与しております。現在3名の日本移植学会認定医がおります。
小児泌尿器について
小児泌尿器におきましては、佐藤昭太郎名誉教授、現在山梨大学病院長である武田正之先生の流れを受け継ぎ、精力的に手術をはじめとする治療を行っております。最近では、平成23年から現在に至るまで膀胱尿管逆流症に対する内視鏡的逆流防止術を30例以上行っており、遊離皮弁を用いた一期的尿道下裂修復術はこれまでで70例以上施行され、その成果はUrologica Internationalisに発表されました。尿道奇形や外陰部異常に対する形成術も県内で行っている施設は当科のみであります。現在は、当教室に2名の日本小児泌尿器科学会認定医がおります。
最後に
以上、当教室の歴史及び現在行っております診療内容につきまして、簡単ではございますがご紹介させて頂きました。少人数ながら、今後も新潟の泌尿器科医療の質をより高められるよう、私達教室員一同、日々邁進したいと考えておりますので、新潟市医師会の会員の皆様におかれましては、引き続きご指導とご鞭撻の程、何卒宜しくお願い申し上げます。
(令和2年3月号)