総括医長 渡部 聡
新潟市医師会の会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃より呼吸器・感染症内科学教室に格別のご支援をいただき誠にありがとうございます。教室の近況につきましてご報告いたします。
教室
当教室は2015年に旧第二内科の改組に伴い、腎・膠原病内科と共に新しく創立されました。現教授の菊地利明先生が初代の教授となります。歴史の浅い教室ではありますが、旧第二内科の良き伝統を継承しつつ、新しい試みを繰り返しながら歩んでまいりました。医局員それぞれが「臨床的疑問を解決できる研究手法を身に着けること」を目標に、教育を当科の文化とし、優れた臨床研究医を育成すべく努力しております。若手医師に呼吸器・感染症内科診療の面白さ、奥深さを広く知ってもらうために始めた「呼吸器道場」は2019年に第9回目を数え、参加研修医は73名と新潟県内の研修医の半分以上が参加する一大イベントに成長しました。呼吸器・感染症内科疾患をもっと深く勉強したいとの若手医師の声に応える形で、2018年からは「アドバンスト呼吸器」を開始し、こちらも盛況の中2回まで継続しています。また菊地利明教授は新潟大学医歯学総合病院感染管理部部長として、院内の感染管理にリーダーシップを発揮しています。
臨床
外来診療は呼吸器・感染症内科および心療内科外来を行っております。呼吸器・感染症や難治性感染症、胸部悪性腫瘍、アレルギー性疾患、間質性肺炎、心身症等、急性疾患から慢性疾患まで幅広く診療しています。呼吸器・感染症外来は新患外来を平日午前に設置しており、ご紹介いただきました患者の対応を行っています。一般呼吸器外来の他に専門外来として、肺腫瘍外来、呼吸不全外来、睡眠時無呼吸外来、感染症外来を設けております。心療内科外来はスタッフの減少に伴い新規患者の受け入れが難しくなっておりますが、お困りの症例がございましたらご相談ください。
病棟ではチーム制での診療を行っております。病棟長の林正周、チームリーダーの市川紘将、木村陽介を中心に、ディスカッションを繰り返しながらより良い医療を提供できるよう努力しています。チーム医師全体がチーム内の患者臨床情報を共有しており、各医師のon-offをはっきりさせること、また女性医師が病棟診療に携わりながら育児を両立できることも可能な体制を目指しております。
研究
呼吸器・感染症内科学分野は、感染症班、気管支喘息・アレルギー班、腫瘍班、びまん性肺疾患班、呼吸生理班の5つのグループに分かれて研究しております。
感染症班は抗微生物薬の適正使用への取り組み、各種新興・再興感染症対策、耐性菌対策などの課題に取り組んでいます。また、HIV感染症診療においては、関東甲信越ブロック拠点病院としての役割を果たしています。最新の情報をいち早く取り入れ、また自分たち独自の情報を研究の成果として発信し、魅力ある職場として後進の確保と育成に結び付けるよう努力しています。
気管支喘息・アレルギー班では、基礎研究としてアレルゲン特異的免疫療法の研究と運動誘発性喘息のモデルを解析しています。臨床研究としては、ぜんそく患者検体や呼吸機能検査データを使用した、患者のクラスター解析や難治性喘息に対する生物学的製剤の上気道および下気道への効果などをテーマに行っており、研究成果を論文発表しております。新潟県健康づくり・スポーツ医科学センターと共同で、中高校生のアスリートを対象とした気管支喘息の診療およびデータ解析も行っており、国内外の学会および学会誌に報告しております。
腫瘍班では、基礎研究の分野ではヒト検体を用いた免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子の開発、マウスモデルによる分子標的治療薬との併用療法の開発を行っています。臨床研究では、全国規模のがん研究グループであるNEJSGに参加し、「既治療EGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するアテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法の第Ⅱ相臨床試験」を立案し事務局として前向き介入研究を開始しました。2019年は、庄子聡が「シスプラチン腎症と尿中メガリンの関連」を『BMC Cancer』誌、「扁平上皮肺癌に対するオシメルチニブの効果」を『Lung Cancer』誌、佐藤美由紀が「EGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するニボルマブの効果と腫瘍局所の免疫状態の関連」を『PLOS ONE』誌、才田優が「NLCTGで行った脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性肺癌の放射線治療とEGFR-TKIのシークエンスの検討」を『Thoracic Cancer』誌、渡部聡が「扁平上皮肺癌に対するネシツムマブ+シスプラチン+ゲムシタビン併用療法の第Ⅱ相試験の結果」を『Lung Cancer』誌に発表いたしました。また、臨床試験の企画、立案、施行を通じて将来大規模臨床研究を行える人材の育成を目指し、プロトコール立案・検討委員会を組織しています。2019年はASCO、呼吸器学会、臨床腫瘍学会、肺癌学会、世界肺癌会議で研究成果を発表いたしました。
びまん性肺疾患班では、臨床研究推進センター中田光教授との共同研究である「自己免疫性肺胞蛋白症に対するGM-CSF吸入療法の医師主導治験の結果」を『New England Journal of Medicine』誌に発表しました。「びまん性肺疾患における疾患コホート研究と、その残余検体を用いた疾患表現型分類、予後因子推定のためのバイオマーカーの探索」、「膠原病に伴う難治性間質性肺疾患に対するミコフェノール酸の治療研究」、「抗IFN-γ自己抗体と播種性非結核性抗酸菌症との関連」等、様々な研究を行っています。
呼吸生理班では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を主とする睡眠医学と呼吸ケア・リハビリテーションの分野をターゲットとし臨床、研究を行っています。中枢性睡眠時無呼吸症候群や神経筋疾患などを対象とし、循環器領域、小児や耳鼻咽喉科領域の睡眠呼吸障害を含め、他科とも協力し研究を進めています。呼吸ケア・リハビリテーションの分野では、入院下での呼吸リハビリを行うとともに、周術期のリハビリの患者の需要増加に対応するため、総合リハビリセンター内の理学療法士が専任制で対応するとともに、外来での術前呼吸リハや術後呼吸リハを行い、効果的な周術期呼吸リハをはかっています。また、呼吸ケアセミナー(講習会、年2回)と実技セミナー(年1回)を実施し、数多くのコメディカルに参加いただいています。
以上、呼吸器・感染症内科学分野の近況を報告いたしました。当科では、菊地利明教授を中心に、「やりたいことをやれる医局」を目指し、教室員が仕事をしやすい環境づくりに気を配りながら教室運営に取り組んでおります。教室にとっての最も重要な使命は優秀な医師を育てることと考えております。そのために多くの入局者を得ることから始め、入局してくれた教室員には精一杯教育を行っていきたいと思います。少しずつですが、確実に前進できるよう医局員一同、一層の努力をして参る所存です。ご指導ご鞭撻のほど、今後ともよろしくお願い申し上げます。
(令和2年4月号)