教授 堀井 新
平素より新潟市医師会の先生方には大変お世話になり、誠にありがとうございます。2015年4月に私が新潟大学へ赴任して、はや5年が過ぎました。今回は教室紹介の機会を頂きありがとうございます。
教室員は教授1、准教授1、講師2、助教9、医員・レジデント7の計20人で、難聴めまいグループ(堀井、高橋邦行、森田、泉、大島、山岸)、鼻咽喉グループ(馬場、佐々木、新堀、岩井)、腫瘍グループ(山崎、植木、正道、高橋剛史)に分かれて活動しています。いずれのグループも各領域の全疾患を対象とし、あらゆる治療法を取り入れ世界の標準治療を行うことを最低限のノルマとした上で、クリニカルクエスチョン(CQ)解決のための臨床研究、その支えとなる基礎研究を行っています。
入院患者は、ほぼ全員が手術あるいは化学放射線療法を要する患者さんです。図1に最近の手術数の推移を示します。2015年に診療体制を効率化した結果、2016年から飛躍的に手術数が増加しているのがお分かり頂けると思います。本稿は医師会の先生への教室紹介の場ではありますが、教室員の日頃の頑張りに感謝いたします。
難聴めまいグループでは新潟大学の伝統である中耳真珠腫の手術治療に力を入れるとともに、2018年にWHOの国際疾病分類ICD-11に収載された慢性めまい疾患であるPPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)を研究テーマとし、世界診断基準の策定、診断法の検討、治療法の確立を行ってきました(堀井、森田、大島、八木)。PPPDの病態解明に関しては、fMRIを用いて脳研究所 五十嵐教授と共同研究を行っています(八木、堀井)。めまいの新規治療として、障害された前庭機能の改善が困難なケースでは、別の感覚入力でこれを代行する「感覚代行」を臨床応用する研究を長岡技術科学大学と共同で行っています(大島、野々村、堀井)。また、新潟大学教育学部と共同で、心理療法の一種である認知行動療法を開始いたしました(八木、堀井)。最も成功した人工臓器と言われる人工内耳手術も県内唯一の実施機関として、最近はより良い聞き取りを目指して両側埋め込み手術も行っています(泉、山岸)。聴覚野の基礎研究も教室の伝統の一つですが、共同研究をしていた脳研究所 澁木教授の退官後も耳鼻咽喉科単独で研究を続けています(高橋邦行、大島、山岸、小木)。全国的な取り組みとしては、日本耳科学会の中耳真珠腫進展度分類、ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎性中耳炎全国調査、難治性中耳炎、耳科手術に関わるQOL評価に関するワーキンググループに参加し調査研究を行っています(森田)。学内共同研究としては、PROST(Project in Sado for Total Health)や十日町いきいき健康調査などの診療科横断的な疫学研究に参加し、認知機能と聴覚の関連を研究しています(森田)。
鼻咽喉グループは、再発率が高く難病指定されている好酸球性副鼻腔炎に対して、手術治療や呼吸器内科と共同で新規抗体薬を用いた治療を行っています(佐々木、新堀)。また、前述の十日町いきいき健康調査では、オープンエッセンス法という簡便な嗅覚スクリーニング検査を行い、嗅覚低下と認知機能の関連を研究しています(佐々木)。また、新潟ではこれまで歯科によるリハビリ治療にのみ頼ってきた嚥下障害に対し、2015年以降、手術治療を開始しました(馬場、岩井)。最近では院内外からの紹介患者も増加してきており、この場をお借りして御紹介頂いた先生方へ御礼申し上げます。基礎研究としては、フラビン蛍光イメージングを用いたマウス味覚野同定に関する研究を継続しています(馬場、小木)。咽喉頭異常感症は患者数が多いにもかかわらず、診断や評価法が未確立の疾患です。問診票を用いた詳細な評価法を考案し、新規薬物治療の開発へ応用しているところです(高橋奈央)。
腫瘍グループは、頭頸部に発生する主に悪性腫瘍に対する手術治療、化学放射線治療を行っています。再建手術においては形成外科の、化学放射線治療においては放射線科の先生には大変お世話になっており、御礼申し上げます。また、医歯学総合病院では甲状腺癌の手術は耳鼻咽喉科・頭頸部外科が一手に行うようになりました。手術患者が増えた結果、術後フォローは内分泌内科の先生にお願いしており、こちらも患者さんのご紹介と合わせて御礼申し上げます。表在癌に対しては化学放射線療法より侵襲が少ない鏡視下手術を行っています。消化器内科の先生方にはこの点で大変お世話になっており、感謝申し上げます。臨床研究としては、低侵襲化学放射線療法に関する臨床研究(植木)、サルコペニアへの介入による頭頸部癌治療成績の向上(正道)、副甲状腺同定のためのイメージング技術に関する研究(高橋剛史)を行っています。また、企業との共同研究では、皮膚浸潤を来たした進行癌の悪臭に対する消臭剤の開発、評価を行っています(山崎)。基礎研究としては、実験病理学教室と共同で頭頸部癌の転移を抑制する分子に関する研究を行っており、感謝申し上げます(植木、横山)。
図2に最近の論文数の推移を示します。教室員の頑張りの結果、2016年から論文数、特に英文論文の増加が著明であることがお分かりいただけると思います。診療業務で多忙な中、論文を執筆してくれている教室員に感謝いたします。
毎年4月の第1週の回診後に、新入医局員を迎えて記念写真を撮っています。2020年は前列の3人が入局してくれました。今後も多くの仲間が入ってくれる魅力ある教室を目指したいと思います。医師会の先生方におかれましては、大学はもちろんのこと、関連病院の耳鼻咽喉科医師が大変お世話になっていることと存じます。この場をお借りして御礼申し上げます。今後とも引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。
図1 耳鼻咽喉・頭頸部外科 手術件数推移
図2 論文数推移
(令和2年6月号)