教授 西條 康夫
研究室概要
平素より、新潟市医師会会員の皆様には、大変お世話になり、誠にありがとうございます。
2012年1月私が新潟に赴任し、当分野がスタート致しました。2012年11月に医歯学総合病院に、診療科として腫瘍内科が設置され、2013年4月から入院ベッドも配置され、実質的な診療がスタートしました。全くゼロからのスタートでありましたが、現在は何とか研究室・診療科として活動ができるまでになってきています。また、赴任前は医学部において緩和医療の教育がほとんどなされておらず、診療も手薄でありましたので、緩和医療についても担当しています。
診療
腫瘍内科として、外来診療および入院診療を行っております。当科は、がん薬物療法に特化した診療科で、診断は行っておりません。対象疾患は、造血器腫瘍を除く成人の固形腫瘍全般です。特に消化器がんや希少がんの患者さんに対する薬物療法が多くを占めています。中でも、合併症や透析などの高リスク患者の薬物療法を多く診療しています。また、放射線科と共同で食道がんに対する放射線化学療法の化学療法や、他診療科で経験が少ない薬物療法を兼科で対応しています。病棟診療は完全チーム制で、朝夕の回診は参加できる医師全員で行い、情報の共有と仕事の分担を行っています。週末は完全当番制で、医師の負担軽減に努めています。
緩和ケアにおいては、緩和ケアチームの主要メンバーとして、入院患者や外来患者の緩和ケア診療を担当しています。また、放射線科と共同でキャンサーボードの運営、消化器・一般外科と共同で、がんゲノム医療の運営を行っています。
がん薬物療法は、免疫チェックポイント薬の導入やがんゲノム診療により、今後も高度複雑化していくことが予想されますので、しっかり対応していきたいと思います。腫瘍内科の診療科が認知されるに従い、他施設からの紹介患者が増加しています。新患は、全て予約制となっておりますので、今後ともご協力よろしくお願いいたします。
研究
主な研究テーマは、①多能性幹細胞を用いた肺臓器再生研究、②ダイヤモンド電極を用いた分子標的治療薬の血中濃度測定法の開発研究、③固形腫瘍における血栓症合併に関する研究、④がん登録データを用いた臨床データ研究、があります。①ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞は、様々な細胞に分化可能です。これら細胞を用いて再生研究が進んでいますが、臓器そのものは多種多様な細胞からなり、移植可能な臓器を再生することは特に困難です。そこで、肺を欠損する動物の体内で多能性幹細胞由来の肺を再生することを目指して研究を進めています。②分子生理学研究室の日比野教授が、ダイヤモンド電極で簡便に薬物濃度を測定する方法を開発しました。多くの分子標的治療薬は、一般の薬剤と同様に、投与量が固定されています。その結果、体が小さい日本人には過量投与となり、しばしば有害事象のため減量しなければなりません。そこで、ダイヤモンド電極法を用いた治療薬の血中濃度を簡便に測定する方法を開発中です。③固形腫瘍の少なくない患者さんに、血栓塞栓症が生じます。この病態や有効な検査法、治療法について、患者さんの血液データを基に研究を進めています。④新潟大学医歯学総合病院は、がん診療拠点病院ですので、がん登録を行っています。がん登録患者さんの臨床データを解析して、安全で効果的ながん薬物療法を研究しています。
最後に
腫瘍内科学分野は、まだ歴史が浅く、研究室員も数名に過ぎません。1つの研究分野や診療科を確立し、人材を育成するには、時間が必要です。新潟市医師会会員の皆様には、今後とも、ご指導のほどよろしくお願いします。
(令和2年10月号)