総括医長 大西 毅
新潟市医師会の会員の皆様におかれましては、日々ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃から麻酔科学教室に格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。当教室は1963(昭和38)年に麻酔科学教室として発足し、初代教授一柳邦夫先生、2代目教授下地恒毅先生を経て、2001(平成13)年より3代目教授として馬場洋先生が就任し、現在に至ります。この場をお借りしまして、当教室の現況につきましてご報告させていただきます。
臨床分野
私達が行う重要な臨床業務に、手術中の麻酔管理を中心とした周術期管理のサポートがあります。新潟大学医歯学総合病院では、手術室を含む中央診療棟が現在の場所に新築されて今年で10年目を迎えます。2010(平成22)年には4,000件弱であった医科麻酔科の管理件数は2019(令和元)年には5,100件を越え、病院全体の手術件数も9,000件に届こうとしております。また、本年4月には放射線透視下に高度な血管内治療などを可能にするハイブリッド手術室が新設され、運用が開始されました。このように年々増加・多様化する手術に対して最適な麻酔管理を行うべく、個々が研鑽に励んでおります。近年は超音波装置の解像度向上が目覚ましく、整形外科手術に対する四肢の神経ブロックによる術後鎮痛、周術期抗凝固療法を必要とする患者さんへの硬膜外麻酔の代替となり得る腹部への神経ブロック、長時間の覚醒下開頭手術を可能にする頭皮神経ブロックなど、体表近くの末梢神経ブロックを効果的に活用しています。また、超音波ガイド下の血管確保は、中心静脈カテーテル挿入時はもちろんのこと、血管径が細かったり、表層からの蝕知が困難な小児・成人の末梢の動静脈確保にも応用され、麻酔導入に要する時間が格段に短くなった他、病棟からの点滴困難症例に対する確保依頼にも対応しています。また、経食道心臓超音波装置についても、解像度向上の他に所見の3次元再構築が可能となり、僧帽弁や大動脈弁の構造異常の検出やサイズの確認、心筋の全体的な動きなどがより具体的に分かるようになりました。心臓手術はもちろんのこと、移植手術や心機能低下患者の非心臓手術の麻酔管理に対しても効果的に活用しています。
また、周術期サポート体制の特色として、緊急手術を除く全症例に対して麻酔科術前外来を実施しています。新潟大学医歯学総合病院には高度な手術が必要な患者、様々な既往疾患を有する患者が全県から集まります。詳細な術式や問題点などを事前に把握・共有して場合によっては検査の追加を依頼したり、外科系診療科と事前にシミュレーションやディスカッションを行い、問題点について情報を共有したりすることで、より最善な麻酔管理が出来るように心がけています。また最近では院内の患者総合サポートセンターとの連携も盛んになり、必要に応じて術前の口腔ケアを行ってもらうなど、多職種間連携もより綿密なものとなっています。
もう一つの外来診療として、毎週月・水・金曜日にペインクリニック外来を開設しています。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの脊椎疾患や、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛、神経障害性疼痛、癌性疼痛、心理社会的要因に伴う疼痛も含めて、痛みに悩む様々な患者さんに対応しています。外来では神経ブロック、薬物療法、理学療法を中心に治療を行います。神経ブロックについては、超音波装置を用いる他、CTガイド下三叉神経ブロック、X線透視下腹腔神経叢ブロックを施行するなどより効果的な手技を行っています。一連の治療が効果を示さない難治性疼痛に対しては、脊髄電気刺激療法や硬膜外腔癒着剥離術など、より侵襲的な手技によって改善を目指します。また、当外来の特徴として特発性手掌・腋窩多汗症に対して胸腔鏡下交感神経切除術を行っていることが挙げられます。本治療を行う大学病院は全国でも数病院しかなく、東日本の大学病院では当院のみが施行しています。美容的な側面や、自動車運転免許が取れないなど社会的側面に悩む若年者を中心に待機患者が年々増加傾向であり、その潜在性に驚きながらも充実感をもって日々治療を行っております。
研究分野
研究については、基礎研究と臨床研究の双方で行っています。基礎研究については、当教室で古くから行われているパッチクランプ法を用いた脊髄における電気活動の変化の観察や、内因性のフラビン蛋白を利用した脳や脊髄の蛍光イメージング法、免疫組織学による疼痛発現物質の局在や行動実験による疼痛閾値の評価を行うなど、様々な手法を駆使して痛みのメカニズムや麻酔に関連する薬剤の作用機序解明に取り組んでいます。臨床研究では、これも当教室で伝統的に行われている誘発電位の測定と影響を与える麻酔薬や薬剤の作用メカニズムに関する検討を中心に、心臓手術麻酔や小児手術麻酔分野でも研究成果を発表しています。2013(平成25)年から2017年(平成29)年の5年間における科学研究費新規採択件数は、全国の麻酔科学教室の中で3番目に多く、累計配分額は全国1位であります。年々多忙化する臨床業務に追われながらも、個々が目標を持って問題解決にあたる姿勢は当教室の誇れる点であると思っています。
以上、麻酔科学分野の近況について簡単ではありますがご報告させていただきました。少人数であり、新潟市や新潟県全体の需要にお応えすることが出来ず申し訳ありませんが、近年は若手医師も増加傾向で以前よりも活気のある教室になりつつあると思っています。より質の高い麻酔診療を各医療機関に提供すべく教室員一同精進しておりますので、新潟市医師会の皆様には引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。
麻酔科学教室同門会の先生方と
(令和3年1月号)