佐藤 舜也
冬枯れの山道を歩いていて、今年の異常な寒さが目立つ出来事に気がついた。町の道ではないので積もった雪は少ないところから消えていく。当然麓のほうが山頂より少ないので早く消える。谷は尾根筋より積雪量が多いので、谷の雪は残る。誰でも知っていることである。
しかし道の傍らに厚く落ち葉を被った雪が歩く真ん中の高さと同じ高さに残っていた。日当たりの悪い山側に雪の残っているのは良くある事だし、落ち葉があってもおかしくはない。しかし今年の残雪は落ち葉の上に雪があるのでなく、雪の上に厚く落ち葉が積っている。考えてみればおかしい。枯葉が先に落ちてその上に雪が積もるのは普通である。雪の上に落ち葉が積もるのはと思って、思いあたることがあった。
晩秋の雪の降る前の落ち葉の盛んな時期に風に吹き寄せられた落ち葉が木の下で一塊になる。その落ち葉の塊がさらに強い風が吹くと舞い上がって散っていくのを、秋の終わりの風物詩として何度もみていた。
積もった雪は日当たりの良い所から消える。まだ消えずに残っている雪のあるときに、春一番のような風が吹いて、雪の消えているところの落ち葉を巻き上げて、吹き溜まりのように残っている雪の上に積みあがる。さらに日中の暖かさで少しは溶けた雪が落ち葉の間に沁みこむと、夜の寒さで水が凍結して落ち葉を積み固めることになる。ちょうど夏まで雪を囲っている氷室のようだと思った。氷室なども昔の人が山の残り雪を見て思いついたのかも知れないと想像すると面白い。宇宙にロケットが飛ぶような現代になっても、人間の考えることは案外大昔とたいして変わっていないのかもしれない。80歳を過ぎても知らないことがあまりにも多いのを、改めて思い知る早春の山道だった。