浅井 忍
平昌オリンピックが始まると、北朝鮮の美女応援団が歌う楽曲が頭から離れなくなった。『お会いできてうれしいです』というタイトルの北朝鮮では定番の歌謡曲だという。テレビで冒頭の2フレーズぐらいが頻回に流れるので、耳に焼きついてしまった。ハングル語で「パンガプスムニダ」と歌っているらしいが、「◯◯スミダ」と聴こえた。初めのうちは気にしていなかったが、なにかの拍子に頭の中でメロディが流れだすと、止めようとしても止まらなくなった。
そこでネットで「頭から離れないメロディ」を検索すると、「イヤーワーム」という回答が得られた。98%の人がイヤーワームを経験したことがあり、強迫性障害の人はイヤーワームを多く訴える傾向があると書いてある。今までに、何回かイヤーワームを経験したことがあり、演歌だったり、Jポップだったり、洋楽だったり、コマーシャルだったりしたが、どちらかといえば好きな曲のメロディだった。今回は不快なメロディである。
イヤーワームを止める方法がいくつか挙げられていて、ガムを噛む、他の曲で上書きするなどがあった。早速、都はるみの『アンコ椿は恋の花』の哀愁ただよう出だしの部分を頭の中で繰り返すと、治まる気配をみせた。
オリンピックが始まった当初はマスコミが好意的に報道していた美女応援団だが、神出鬼没な行動にマスコミも視聴者も愛想をつかしたのか、オリンピックの後半は報道される機会がめっきり少なくなった。
SF界の巨星アーサー・C・クラークの『究極の旋律』という短編は、イヤーワームがテーマの作品である。「究極の旋律」を発見した科学者は、繰り返しその旋律を聴いたせいで、植物人間になってしまう。ところが、同じ回数を聴いたはずの助手はピンピンしている。オチは、助手が「究極の旋律」と盛りのついた猫の鳴き声との区別がつかないくらいの音痴だったというもの。
ところで、この文章を書くためにあれこれやっていたら、再び例のメロディが流れだした。今度はイーグルスの『Desperado』のサビの部分で上書きしよう。