山﨑 芳彦
アジアのある大学病院で講演を依頼された時、これに先立ち、この大学の女性医師と英語でe-mailのやり取りをし、情報や日程などの質問をさせてもらったことがある。彼女には、現地に着いてからも、講演の手助けや、われわれ夫婦に近くの名勝への旅行の案内をして頂いた。外国には、日本に1週間くらい行ったことがあるだけというが、会話の端々から非常に聡明な方だと分かり、考え方も我々と同じで、親しみのもてる医師であった。英語が流暢で、病院訪問の外国人の応対を任せられているという。しかし、英語はアメリカ人から習ったことがあるが、英語圏への旅行もないとのことで、その語学力に驚いた。東日本大震災の時も、メールで丁重なお見舞いを頂いたりしていた。
日本に戻った後も、何回かe-mailでやりとりし、しばらくは問題なく経過していた。相手は社会主義体制国の方なので、元々、政治的な内容は書かないよう気を配っていたが、ある日、メールを送ると、直接相手のメールアドレスに届かず、別のアドレスに送るようにとメッセージが入り、このアドレスが記載してあった。おそらく、関係機関が、内容チェックのために行ったものだろうと推測された。外国からのメールはすべてこのようにしているのか、抽出した一部だけに行っているのか、一時的なものかは判断できなかった。しかし、こちらもどうしても伝えなければならない内容でなかったし、一々、間接的な方法でやりとりをすることにはためらいがあったこと、もしやウイルスでも付いていないかなどの心配もあり、メールを送ることを断念した。このあと、相手側からも届かなくなり、今ではお互いの連絡も途絶えてしまった。
南米にも、社会主義体制国となった国があり、鉱物資源が豊富なのに財政も逼迫し、治安も不安定になっている。ここに、高校生の時、当家にホームステイし、今は弁護士となった若者がおり、ずっとe-mailでやりとりしてきた。毎年、お互いに、近況を知らせたりするくらいの内容であった。しかし、ある年から、前述の場合と同じく、メールが直接届かなくなり、別のアドレスに送るようにとのメッセージが入った。これも、やはり、当局により、メールの内容をチェックするためと想像された。このため、メールによる送信はやめて、手紙で送るようにした。手紙の内容もチェックされるかもしれないとの懸念もあったが、見られても問題となるようなことは書いたことはない。この1-2年後、久しぶりに相手からのe-mailが届いた。これに対し、彼のe-mailアドレスに返事をしてみたら、今度はスムーズにアクセスできた。これも、外国からのものを、一律にすべてに対し直接送れないようにしたものか、一時的なものなのか、一部抽出してこのようなことを行ったのかわからなかった。
欧米など、これら以外の国ではスムーズで、このようなチェックを受けたことはない。勿論、社会主義体制の国に送るときは、政治的なことや体制批判をすることは書いたことがないが、いろいろチェックされるのだと感じている。インターネットでも、こういったことを書くとすぐに遮断されてしまうと聞くが、メールの場合も同様なのだろうか。
(平成30年8月号)