加藤 俊幸
この刺激的な題名が気になって読んだが、膵臓病で余命のない女子高校生が書いた「共病文庫」を見つけた同級生の僕との短い交流を描いた青春小説だった。若い子が亡くなる膵腫瘍ってなんだ? 村上春樹の『ランゲルハンス島の午後』と同様に表題からの期待と内容は違った。しかし、2016年本屋大賞第2位など話題となった。さらに映画は過去と12年後の現在が交錯しながら描いて素敵な作品となっていた。
実は、その題からまず浮かんだのが、藤田恒夫第三解剖学教授との「膵臓を食う会」である。先生は1968年に就任され、講義以外にも朝食会や写生会に学生を誘われ、時に「愛する組織を食べよう」と観察後に木造研究室の中庭や松林でBBQを楽しんだ。先生の学位論文は「膵臓の神経」で、膵臓への思いはとくに深く、シンポジウムのテーマに膵臓を選んだのを機会に、「豚の膵臓を食べたい」とシェフに頼まれた。数軒で試食した結果、学校町のレストランでやっと味わえる料理ができたと誘われて市民病院などの先生方と食した。枝豆を食べると膵臓が大きくなる話や膵臓をギリシャ語では「美し肉」ともいうと聞いた。「絵は描いているか」と聞かれて、油絵は時間がないがスライドの絵は自分で書いていますと答えたが、教授のようにサインは入れていないとまでは言えなかった思い出がある。先生のイラストは『細胞紳士録』で楽しめるが、「恒」のサインが必ずある。1995年に退官されるまで吸引生検による膵組織を熱望されていたが、2012年に膵疾患ではなく脳梗塞のため82歳で亡くなられた。そして、七回忌の今年、奥様が思い出と先生の遺稿をまとめられ、題は「橄欖(かんらん)の花散りて」。機会があれば駒場にある仏蘭西料理 橄欖に寄って先生を偲びたい。