細野 浩之
三年に一度開催される越後妻有の「大地の芸術祭」が今年も開かれ、行ってきました。そんな中、これぞ「大地」を感じさせる作品がありました。
「Welcome」と名づけられたその作品の作者はバルトロメイ・トグオさんで、カメルーン出身、カメルーンとフランスで活動されています。作品の舞台となった滝は集落の奥地で約50年間忘れられていた幻の滝だそうで、作品は移動に疲れた旅人が憩うための椅子。世界で頻発する亡命・追放によって移動を強いられた人々への祈りをあらわすとのことでした。
十日町市から車で約50分。途中からすれ違いも難しいような山道を通り、ようやくたどり着いた小さな山間の「中手」と言われる集落に車を止めると、案内看板に「作品までは約1.5kmです 作品からの帰り道は急な上り坂です 必ず飲み物をお持ちください」と書いてありました。やっとたどり着いたのに、ここから1.5km山道歩くの? てっきり集落の一画に作品があると思っていましたが、覚悟を決めて行くことに決めました。車が通れない道を歩き、杉林を歩き、途中小さな椅子に座って休憩しながら棚田を眺め歩き、急な下り坂の登山道にはいり森の中を歩くと雑木や雑草が生い茂る平地にでました。そこには高さが様々な椅子が無数に置いてあり、その上にいくつかの荷物が置かれていました。さらに歩くと「黒滝」という落差二十数メートルはある美しい滝の展望台にでました。そこにも大小さまざまな荷物が置いてありました。帰りによく見ると、無数の椅子が置いてある雑木や雑草が生い茂る平地が、地形からすると人工的であり、ハッと気づくと、どうも数十年前に農耕をやめた棚田であるとわかりました。
忘れられていた滝の展望台に置かれた荷物。見捨てられた棚田に置かれた椅子や荷物。そして作品名「Welcome」。それぞれを反芻しながら、ゆっくり作品の意味を考えながら、まだ残る美しい稲刈り前の棚田を見ながら、息を切らしながら、帰りの急な上り坂を歩いたのでした。往復一時間ほどの大地の芸術ハイキングでした。