松浦 恵子
私は家で食べた果物の種(タネ)を土に埋める癖がある。これまでに埋めた種は、リンゴ、桃、枇杷、ミカン、アボカド、など。埋めたら芽を出して育つことを期待しているわけだが、その点で一番の優等生はグレープフルーツの種。グレープフルーツの果実にふっくらとしたいい種があると、手近な(元は何かの植物が植わっていた)植木鉢の土の中に埋める。そんな風にして芽を出して育った“グレープフルーツの木”の鉢がわが家には3つある。それぞれ推定樹齢15年、7年、5年だ。冬の寒さ対策と夏のアゲハ幼虫対策のために年中、屋内に置いて突然に伸びる枝と常緑の葉を愛でている。
最年少の5歳の木に昨年、アブラムシ(との素人判断)がついてしまい、割り箸ほどの幹も爪楊枝ほどの枝も葉も元気がなくなった。このまま駄目かもと思っていたら、今年の早春に新しい葉芽が出てきたではないか! スゴイ! エライ! よく頑張ってる! と声をかけ、4月になってからこの鉢を戸外に出した。アブラムシはテントウムシに退治してもらおう!というわけだ。テントウムシはついぞ見かけなかったがグレープフルーツの木の幹に蟻が集まって来た。そしていつの間にかアブラムシの痕跡がなくなり新しい葉がたくさん繁り始めた。蟻のパトロールは続き(蟻さん、ありがとう!)5歳の木はすっかり元気を取り戻した。
早い梅雨明けと酷暑の始まりの7月のある日、ふと見ると青々としたグレープフルーツの葉が虫食まれている! アゲハの幼虫(はらぺこあおむし)のお食事処になっていたのだ。私は油断していた自分を責め、青虫数匹を葉から落として慌てて鉢を屋内に回収した。その時には見つけられなかった青虫2匹が翌日少し大きくなって姿を見せたのでお引き取り願ったが、葉はほとんど無くなっていた。ところが安全環境の中に置かれたグレープフルーツの枝に新芽が出はじめ、10日ほどで見事に生き返ってくれた。なんということでしょう。
水遣りをしながら私は「エライね、頑張ったね」とグレープフルーツの木に声をかけ、こっそり自分をも褒めている。
Before
After
(平成30年10月号)