山﨑 芳彦
山﨑 洋大
地球の温暖化は、いまや地球規模のやっかいな問題となっている。この130年間で平均気温は0.85℃上昇し、氷河の後退が明らかになり、北極や南極の氷が解けて海の水位が19cm上昇したという。このため、水没の危機が迫っている国も出てきている。パリ協定からの離脱を表明したトランプ米国大統領は、温暖化の影響はないと強気だが、科学的根拠はないようにみえる。温暖化の最も大きな原因は、炭酸ガスなどの温室効果ガスが急速に増えていることだという。これによって、気候も大きく変動し、植物や動物の分布も変わり、このままでは、やがては我々の生活にも大きな影響が出てくるであろう。
トンボの調査や写真撮影などを趣味としているので、トンボの分布をこの30数年みつめてきた。これによると、本来、南の国にみられたトンボの北上傾向がみられ、この面からみても、地球の温暖化が進んでいることがひしひしと感じられる。
秋になって季節風が吹き始めると、これに乗ってオナガアカネやタイリクアキアカネなど極東地方にすむ寒冷地系のトンボが、新潟県などの日本海側の海岸線に沿った地域で採集されることがある。また、通常は南の国に棲んでいるトンボが台風などの風に乗り、北国で採集されることは時にみられる。沖縄などでよくみられるハネビロトンボが、刈羽村の池でかなり多く採集された年があったが、これらは一時的なもので、翌年は全くみられなかったりする。おそらく台風などの風に乗り、たまたま集団で飛ばされてきたものであろう。しかしながら、このトンボは飛翔力が強く、今でも沖縄以外の全国で散発的にみられることがあるが、長い目でみると、分布は少しずつ北上しており、特に九州や四国では採集数が増加している。タイワンウチワヤンマ(写真1)は南西諸島では普通種だが、かつて、ここより北ではほとんどみられなかった。本県でみられるウチワヤンマよりやや小型で、腹部先端のウチワの部分の模様が異なる。このトンボは、確実に分布が北に広がり、学術的にも確認されている。今では西日本では普通種になりつつあり、神奈川県まで多くみられるようになった。本県でみられるようになるのも時間の問題であろう。マルタンヤンマやアオモンイトトンボは、以前は西日本に多かったが、これも北上傾向がみられ、この2−3年に、新潟市をはじめ県内の池などでの観察例が増えている。2015年、新潟市の池でスナアカネが本県で初めて発見され、16年、17年とその数を増しており、17年には自らも確認できた(写真2)。石垣島では多く観察されていたが、いまや石川県、富山県、山形県でも観察されており、本県で見つかるのも時間の問題とされてきた。最近になって観察例が増加していることは、やはり温暖化による北上ではないかと推定される。
このような暖地系のトンボの北上が、直ちにわれわれの生活に影響を与えるものではないが、温暖化の確かな指標とみることができる。何万年か前、日本列島は大陸と陸続きであった。この頃オオセスジイトトンボ(絶滅危惧種ⅠB)(写真3)は、中国の大陸部から日本各地に渡って広く分布していたと推定されている。しかし、温暖化や地殻の変動により海が広がって、日本列島は大陸と分断され、いまや、環境が似ている上海の揚子江下流域、新潟市の阿賀野川、信濃川の河口域などに限局して生き残っており、大陸と陸続きであった証拠とされている。因みに、1980年代に、著者らが阿賀野川下流の池に目を付けて訪れ、驚くほど多くのオオセスジイトトンボを発見、越佐昆虫同好会の重鎮に知らせてからトンボ仲間の間では知らぬ人はいなくなり、現在でも多く観察できる。後に、ここで、絶滅危惧種ⅠBのオオモノサシトンボ(写真4)も発見され、全国からトンボ愛好家が訪れるようになった。
海が広がり、琉球列島の多くが水没していた時代もあり、このため、高い山がなかった宮古島などにはハブが生存できなかったという。現在、地球は第四紀氷河時代にあり、4−10万年の間隔で、氷床の発達と後退を繰り返していると言われるが、なぜ繰り返すかわかっていない部分も多い。短期間でみると、観測史上初めてといわれる暑い日や寒い日が出現し、異常気象といわれることがあるが、長い目でみると、地球の温暖化はじわりじわりと進んでおり、さらに海が広がって、日本沈没という時代がやってくるかもしれない。
(日本トンボ学会、越佐昆虫同好会所属)
写真1 タイワンウチワヤンマ♂、2000.8.20沖縄県石垣島
写真2 スナアカネ♂、2017.9.23 村上市
写真3 共食いするオオセスジイトトンボ♀、1991.7.27 新潟市東区
写真4 オオモノサシトンボ♀、1991.8.21 新潟市東区
(平成31年1月号)