大西 洋司
蕎麦博士こと・広沢秀夫先生率いる第3回蕎麦紀行は、雲一つない紺碧の青空が広がった11月3日だった。高速道路からは、初冠雪を頂いた頚城三山が我々を歓迎してくれていた。メンバーは広沢医院広沢先生、岩室リハビリテーション病院上村旭先生、それに大西である。
目指すは北志賀の竜王スキー場にあるロッジ「山の実」。たわわに実る赤いリンゴが青空に映えるつづら折りの山道を辿り、竜王スキー場のゲレンデに着いたのは、予約の11時半前だった。既に数台の車が開店を待っていた。ナンバープレートを見ると東京・山梨もある。蕎麦ファンの憧れの店である事が納得できた。
「山の実」は、冬はスキーロッジ兼レストランとして営業し、春から秋までの期間限定、しかも金~月のみ、蕎麦を提供している。
そば懐石を注文して最初にでてきたのは、そばがゆである(写真1)。須賀川地域の蕎麦はやや緑がかったのが特徴で、蕎麦の実を薄いだしで炊いたもので、蕎麦の香りとだし汁とマイタケが絶妙のコンビネーションである。先付として、その後の蕎麦料理の展開にわくわくさせるに十分であった。
次に出てきたのはそばがきである(写真2)。普通そばがきと言えば、蕎麦粉を水で溶いて、火にかけて練っていくなめらかなものだが、ここのそばがきは、粗びきの蕎麦粉が使われていて、緑がかった色で、蕎麦の香が深く脳裏に刻まれるものだった。
満を持して登場したのが、つなぎなしの10割そばで、色・つや・香り・歯触り・のど越しにこれ以上ないという上等なものであった(写真3)。
新潟からわざわざそばを食するために来た甲斐があったと思いきや、最後に出たのは、蕎麦とリンゴのピザであった(写真4)。
今までの蕎麦紀行では、いずれも純和風の料理だったが、さすが冬はスキー場のレストランになるだけあって、若い人向けのピザにも磨きをかけているのだと感心した。
店の前で記念撮影をして、「山の実」を辞した。
広沢先生から、1か所寄り道したいと提案があった。近くに野猿公苑があるという。
連れていかれたのは、「山の実」から車で15分くらいにある地獄谷野猿公苑である。
駐車場を降りて、15分くらい歩くと噴泉のある地獄谷に着く。谷川を挟んだ両側の斜面に猿たちが三々五々群れをなして、けんかをしたり、お互いに蚤取りをしたり、様々である。
猿は人間に食べ物をねだることもなく、人間を脅すことなく、人間と猿とがさりげなく共存している。観光客のお目当ては、温泉にはいる猿をカメラに収めることなのだが、当日は暖かかったせいか、猿は露天風呂の縁を歩くだけであった。猿と言えば、昔白山公園の檻のなかにいた猿たちは、見物人を見ると、威嚇したり、投げ入れられるせんべいなどを食べ争っているイメージしかなかったが、ここの猿たちは自由に飛び回って、人間と共存している姿に、人間社会も地球船の一員として、他の生物を脅かすことなく、お互いに平和に生きていけるような社会をめざせないものかと思った。
車の中で、同じ内科医という括りの中ではあるが、それぞれの分野の情報を語り合い、楽しい秋の1日であった。
写真1 そばがゆ
写真2 そばがき
写真3 つなぎなしの10割そば
写真4 そばとリンゴのピザ
(平成31年1月号)