大滝 一
私は少なくとも週に4日は本屋に寄ります。本屋は私にとっていろいろな情報を得る貴重な場であると同時に、心身を癒してくれる安らぎの場でもあります。
たいていは帰宅途中に市民病院の隣の大手チェーンの書店に寄るのですが、1月5日は土曜で夕方に時間もあったことから、自宅とは反対方向の本屋に寄りました。その本屋の絵画コーナーで出会ってしまったのが写実絵画です。
瞬時に魅了されてしまいました。久しぶりに頭を思いっきりガッツンと殴られた感じ、瞬殺です。それが『写実絵画の麗しき女性像』(辰巳出版:平成30年3月1日発行)でした(図1)。特に表紙を開いて、すぐに目に飛びこんできた水差しを持つ若き女性をみて(図2)「これが絵なのか?写真じゃないのか?本当に人間が描いたのか?あまりにも凄すぎる」といった感じでした。この絵は「不在」という作品で、この一枚で、それを描いた画家「山本大貴」の大ファンになってしまいました。
この『写実絵画の麗しき女性像』には山本画家以外にも、表紙の絵を描いた卯野和宏氏、岡靖知氏、伊勢田理沙氏など若手画家の力作がたくさん掲載されており、見ごたえ十分です。皆さんも是非一冊いかがでしょうか。
その画集を見ているうちに、千葉に写実絵画の美術館があることを思い出しました。家に帰ってネットで調べると千葉市の「ホキ美術館」でした。そこが日本で唯一の写実絵画美術館であること、さらには写実絵画に関する多くの画集が出版されていることも分かりました。決してメジャーではないかもしれませんが、この写実絵画のマニアが増えつつあり「ホキ美術館」には全国から足を運ぶ人が沢山いるとのことでした。そこで、まずは画集をと思い、Amazonで早速以下の4冊を注文しました。
『写実画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く』(生活の友社)
『息をのむ写実絵画の世界 美しき女性像』(日東書院)
『写実画のすごい世界 限りなく「本物な女性たち」』(実業之日本社)
『写実絵画の新世紀 ホキ美術館コレクション』(平凡社:別冊太陽)
この4冊、いずれも凄い。女性画が多いものの、風景画、静物画も極めて素晴らしい。
こうなったら2冊で紹介されている「ホキ美術館」に行かなくては、と思ったのが1月10日です。
そして、次に多くの写実画家の中で、自分がもっとも気に入った画家「山本大貴」を調べてみました。すると、1月20日まで日本橋で個展が開かれていることも分かりました(図3)。この絵は『写実絵画の麗しき女性像』に掲載されている「Aeolian Harp」という作品です。
「もう、これは絶対に行くしかない」と思い、特に連休中予定もなかったので1月13日の日曜に急遽日帰りで行くことになりました。家内にも見せたところ大いに気に入ったようで、一緒に行くことになりました。
7時19分発の新幹線で9時40分に東京に着き、東京駅構内をかなり歩いて、京葉線の10時ちょうど発の特急「わかしお」に乗車して45分で千葉県大網へ、そこからタクシーで10分、閑静な住宅街と公園の間に美術館はありました。ルーブルやプラドなどの世界的に有名は美術館などに比べればはるかに小さいものの、歩いて回るにはほどよい大きさかと思いました(写真1)。
館内には9つのギャラリーがあり、全部で150点あまりの作品が展示されていました。11時から約20分、ギャラリー1(写真2)でガイドから絵画の特徴や作家についての話がありました。内部の壁は白が基調で落ち着きがあり(写真3)、ライティングの工夫からか絵が浮かび上がるように際立って見えました。
どの作品も目を見張るほどすばらしいものでした。前述のごとく女性像が多いものの、静物画や風景画も凄く、図4の野田弘志氏の作品である「蒼天」にはため息が出ました。「ホキ美術館」のホームページや画集でも多くの絵を見ることができますが、100号(180×120cm)以上の迫力のある作品も多く、また髪の毛一本、木の葉一枚まで丁寧に描かれており、是非ご自身の目でじかに観て感動を味わっていただきたいと思います。作品の中にはイラストコンクールに応募したところ、写真はだめだと断られた作品もあるとのことでした。その作品は本当に写真ではないかと見まがうものでした。
ありがたいことに、その日はそれほど込んでいなかったために、1時間ほどでじっくり見て回ることができました。感動しっぱなしの1時間でくらくらとめまいがしたくらいです。
お腹がすいたところで昼食ですが、美術館には2つのレストランがありました。イタリアンのコースのお店と、ハヤシライスやローストポーク丼を出すお店です(写真4)。昼からコースはちょっとと思い、後者のお店に入りました。量がやや少なめで、還暦を過ぎた私達にはちょうどよかったです。
その後に、ショップで気に入った絵画のポスターを何点か購入し、また来たいと思いながら「ホキ美術館」をあとにしました。
さて次は「山本大貴展」です。3時に東京駅に着き、駅から歩くこと約20分、日本橋三越本店向かいのビルの4階にあるギャラリーで開催されていました(写真5)。40坪ほどのギャラリーに22点の作品が展示されていました。
いずれの絵も凄いの一言で、約30分、ため息ばかりついていました。一旦治まったくらくらがまた襲ってきて、ソファに腰掛けてしまったほどです。
どうしたらここまで描けるのか。髪の毛一本一本の色合、着物の模様や皺、壁に当たる光の具合、バイクの細かな構造、バラの花びらの色彩、楽譜に並ぶ音符、籠の編み目模様、絵の片隅のキジトラの猫。『写実絵画の麗しき女性像』の中の「暮春の花Ⅱ」(図5)などを見てもその素晴らしさが分かると思います。
「山本大貴」は38歳とまだ若く、多い年は年間50作品ほど描くそうです。「ホキ美術館」のガイドさんの話では、写実画1枚を仕上げるのに、普通は大体1ヶ月から3ヶ月かかるそうで、長いと数年に及ぶこともあるとのことでした。また彼は最近特に人気で、絵が売りに出されると50倍から60倍の競争となり、価格も1号(18×12cm)当たり8万円を下らず、100号となると1,000万円以上となることが多い、とギャラリーの係員が教えてくれました。そして、今回の「山本大貴展」は大好評をいただいているとのことでした。
「ホキ美術館」と「山本大貴」、写実絵画を堪能しつくし、あまりの精緻さと細密さに打ちのめされ「あー、すごかった、大満足!」の一日でした。
新潟県のアンテナショップの前を通り、東京駅まで歩いて、7時半に新潟に帰りました。感動さめやらぬ中、ホテルメッツの下の居酒屋「魚沼釜蔵」でその感動を反芻しながら、新潟のお酒で心地よく酔わせていただきました。本当に好い一日でした。
まるで写真のようだが写真ではない。何が違うかというと明確には答えられないが、何かが違う、それは間違いない。一瞬を切り取る写真と、丁寧に丁寧に描きあげた写実絵画との違いか?画家の熱く強い想いが絵に塗り込められているのでしょうか。考えてみれば、ダ・ヴィンチもフェルメールも写実に極めて秀でた画家です。
久々にガッツンと衝撃を覚えた実写絵画集『写実絵画の麗しき女性像』、「ホキ美術館」と画家「山本大貴」は一押し、超お勧めです。是非ご自身のまなこでご観賞のうえ感動いただきたいと思います。
なお今回の掲載にあたっては、「ホキ美術館」より写真を提供いただき、ちばぎんひまわりギャラリーと辰巳出版より掲載の許可をいただきました。関係各位に心より感謝申しあげます。