佐藤 舜也
この冬は雪が少なく、除雪車が一度も来なかったので雪除けすることもなく終わった。生まれて80年はじめての経験かなと思う。地球が暖かくなっているのか。
雪のない早春の山道を歩いて、目につくのは赤い椿の花とアオキの実である。足元にはイチリンソウやエンゴサクなどの白い小さな花が寒さに縮こまって咲いている。足元だけ春を囁いているようである。ことしはユキワリソウも早かった。例年だとまだ雪の残っている時期なので、少し遠慮して時期外れに咲いてすみませんとでも言うような雰囲気である。3月末から4月初めの春の花がいっせいに咲き誇る時期には遠いので、先走って咲いて申し訳ないとでも思っているかのようである。
タラノメはまだ固く小さな蕾のままだし、春先に採れるイワガラミの芽も赤い小さな苞のままで、たまに見つかるフキノトウのほかには食べることができそうな山菜はまだ眠っているようだ。
2月末にカタクリの新芽が出ているのを見つけた。早すぎると思ったが、カタクリもそう思っているらしくなかなか花芽をつけない。新芽を見つけてから花の蕾が出てくるまで、10日くらいかかった。
雪の消えた早春の山は藪も枯れているので足元さえ気をつければどこにでも行ける。そこでいつも痛感するのはいかにものを知らないかということである。同じ山に50年も通っているというのに、冬枯れの道で踏んでいる枯れ草にほとんど知っているのはない。ただいつも花の咲く場所は分かるので、キケマンの草の群落が出ているのは分かった。それ以外は枯れ草も、春に出た新芽も花が咲いてくれないとほとんど名前は分からない。
目につくものの名前がほとんど分からないのでは、NHK TVのチコちゃんに「ぼーっと生きてるんじゃねーよ」と叱られそうな感じだなと思った。
(平成31年5月号)