山﨑 芳彦
最近、日本でも、子供や若い女性らがちょっとしたトラブルで、または何の責任もないのに通り魔的に襲われて、ときには殺害に至る事例が報道などで目にするようになった。
まだ若く、これからという時に人生を終えてしまったと思うと何ともやりきれない。
日本では、ナイフや包丁などの凶器による殺傷が多いが、米国では銃による事件が圧倒しており、このことは誰もが認めている。多くの人が簡単に銃を持てることが主因であり、このため、防ぐ方も銃で対抗することになり、一層銃撃事件が増えることになる。真夜中、ロサンゼルスのダウンタウンのホテルの外で、パーンパーンという音を聞いたことがあるが、これくらいでポリスカーが駆けつけるわけではないし、翌朝は何事もなかったような静けさであった。研修していたロサンゼルスの病院の職員の中にも銃を持っている人がおり、時々郊外に行って発射するのだという。通常街中で、警官以外で銃を持っている人を見かけることはないが、民間の警備員(Security guard)も銃を持つことが許可されており、これを携えて警備している。病院では、日中に銃をもった警備員を目にすることはないが、夜間に緊急手術などで呼び出されると、頑強な警備員が腰に銃をさげて病院の入口で待っている。緊急手術で呼び出されたというと、度々呼ばれるためある程度の顔見知りとなっており、すぐ中に入れてくれる(写真1)。銀行では、日中でも銃を携えた警備員が入口の前で警備している。30数年前はATMもなく、給料は2週に1回小切手で支払われるため、換金のためしばしば銀行に行く必要があった。このためここの警備員とも顔なじみとなり、挨拶するとにこやかに銀行の中に入れてくれる。夜間、緊急手術などで呼び出されると、車でダウンタウンにある病院に向かうことになるが、ロサンゼルスの夜のダウンタウンは治安が悪いと言われ、運転の道中も気が休まらない。赤信号で車が止まると、後についてきた強盗に銃を突き付けられたというニュースも新聞に出ており、そのため、いつでも出せるようにして20ドル程度の金をポケットに入れておくのがよいと言われ、そうしていた。財布を持たず、直接現金をポケットに入れておく人も多い。危険を感じさせる事例は一度もなかったが(写真2)。
ヨーロッパでも、テロなどが増え、大量の殺人事件も多くなり安心できない。小さな事件も多く、日本人観光客は金持ちと思われて狙われやすい。イタリアでは、日本人女性観光客が、人ごみの中で、リュックサックに入れておいた財布を抜きとられたと同行したひとから聞いた。リュックサックも人ごみの中では前むきに抱える必要があるという。バルセロナでは男性が、高級時計を腕に付けて、バーで踊っているとき、相手の女性に安物の時計とすり替えられたという話を聞いた。わからないようにすり替えるという技にも驚かされるが、まさかと思うようなことが起こる。ロンドンの地下鉄でスリに財布を抜き取られたということも体験者から聞いている。最近、ブラジルのサンパウロでの長期滞在から帰国した人の話を聞くと、ここの治安も日本では信じられないほど悪いという。現地では、防弾ガラス付の車を貸与されたが、赤信号で止まった時に強盗に狙われやすいので、赤信号で止まらないですむよう速度を調節するのだという。万が一止まっても窓を開けないで話ができるよう、車の内外で会話できるマイクが付いている。日本にいるとありがたみが分からないが、車には走り出すとドアロックが自動的に働く機能がついているのもこのためでもあろう。自宅のマンションも、顔認証など何重ものチェックを受けないと入れない。一緒に帰国した幼稚園児も、「ブラジルはちっとも楽しくなかった。外の空気を吸えるのは自宅と幼稚園の間だけで、外にも遊びに行けなかった」と言っている。
米国にいるときは外出しても常に緊張感があり、帰国して、また、海外旅行から日本に帰るとほっとした気分になる。日本に外国からの観光客が増加している一因も、日本の治安が良いことも大きいのだろう。こうしてみると、米国のような銃社会の国にはなりたくないし、日本ほど安心して暮らせる国はないと思う。しかし、最近は、警官が襲われたり、物騒な事件も報道などで目につくが、いつ巻き込まれるかわからないトラブルの回避の心得や、夜間の外出などにも緊張を強いられることが多くなってきたのは残念である。