勝井 丈美
若い頃から家にテレビを置かず、余暇は専ら読書と映画という友人がいる。今年の春にふと思いつき、その友人にブックレビュー&シネマレビューを定期的にしようと持ちかけ、以後月に1回某ホテルの喫茶室で会って2時間、楽しい時間を過ごしている。
その友人が春頃に図書館で樹木希林著『一切なりゆき~樹木希林のことば~』を借りようとしたら、20数人待ちですと言われたという。私も希林さんの生き方には関心があったので、さっそく新書版を購入して読んでみた。
単行本は2019年上半期で120万部を突破し、新書版は5か月間に21刷にもなっている。本の内容は過去に彼女が受けたインタビューや対談記事の中から、これはというところを抜粋して、1.生きること 2.家族のこと 3.病のことカラダのこと 4.仕事のこと 5.女のこと男のこと 6.出演作品のこと の6つの章に編んだものだ。
時には希林さんは自身に対して、鋭いナイフの刃を向け内面深く、えぐり出している。そんなことまで、と思うのだが最後はちゃんと自分で自分を許し、面白がっている。今では死語となった「始末こころ」を貫く生活哲学がユーモラスに語られているところも可笑しかった。
希林さんが2018年9月15日に希望どおり自宅で亡くなってから1年たったが、晩年から沸き起こった希林ブームが未だに続いていることに驚く。最近もテレビで特集番組があったし、関連本も新たに出版されている。読者の多くはシニア世代の女性たちと推測しているが、シニアに人気の訳はと考えた時、彼女のことば「アンチエイジングというのもどうかと思います」にたどり着いた。アンチエイジング花盛りのご時世に、世間に迎合せず、そんなに頑張らなくてもいいよということばは、頑張って少々疲れていた人々に優しく届いたのではないだろうか。
(令和元年10月号)