阿部 志郎
平成9年8月13日(水曜日)午後の新潟駅・新幹線ホームに総勢7人はその時を迎えた。開業して12年目、診療所として最盛期を迎えたこの時期に職員海外旅行を決行すべく準備を進めてきた。
その年から市の急患センターはお盆期間中も開設する事となり、凡そ一週間の休診が診療所で可能になったからだ。旅費は全て当方負担で実施された。
看護師、事務員、検査技師、薬剤卸の社員、旅行会社添乗員、私の総勢7名である。
成田エクスプレスで成田空港に乗り入れた私達は、20時55分発カンタス航空のパース直行便を心待ちにしていた。管内放送で案内が流れ、いそいそと出発出口へと向かった。その方向は大型旅客機に繋がる廊下型通路ではなく、フロアから脇の階段を降り空港建物脇を歩かされた。その先に北海道空路に就航と同じジェット機DC10が待っていた。
これからパースまで約1万キロを飛ぶ旅客機としては、なんとも心細い機体に思えた。機内で出発を待っていると“機体に不具合がみつかり、20分程の安全点検時間”と言われ結局30分遅れになった。大きな航空機事故ゼロのカンタス航空ゆえの措置と思った。
深夜、機体が大きく揺れている。赤道上空の上昇気流に呷られていると理由づけた。グレートサンデー砂漠の上空を飛行する僕らの機体を思い浮かべつつ…。
窓から朝焼けが見える。丸みのある地平線に沿い赤・オレンジ・黄など暖色系の変化から細い白色ゾーンを経て水色から青紫が漆黒な宇宙空間へと溶け込む神秘的な光景である。30分遅れにも関わらず、飛行機はさすが翌朝定刻でパース空港に到着した。
8月14日(木曜日)
南緯30度近くのパースは、都会的なビル群が紺碧な空に向かって何本も聳えていた。半日観光バスで現地添乗員は、繁華街からスワン川に沿った住宅地まで案内して回った。川面の青、芝生の緑、住宅街は洋菓子のようにカラフルな色彩…美しい街の印象を抱いた。午後は中心街へ買い物に出る。珈琲メニューの大半がエキソプレッソはお国柄かな。バスに乗ったら料金いらないと言われた。税金で賄ってるから外国人にも不要とは凄い!宿泊ホテルのロビーでカンタス航空のフライトクルーに会う。このホテルは三星マーク?
8月15日(金曜日)
4WDの助手席から、大きくうねる草原のドライブウエーを延々と眺めている。波打つ大地の緑、そこへ真一文字の白い道、紺碧の青い空…只それだけの退屈な景色。やっと4WDは広大な砂原に入る。砂地の大地ににょきにょきと林立する無数の棒が視野に広がる。荒野の墓標“ピナクルス”は古生代石炭紀の森林跡の姿で樹木が石灰化して出来たといわれる自然遺産である。大樹跡上から眺め渡し太古の森林風景を思い描いた。
4WDで砂丘の急斜面から駆け下り、コバルトブルーのインド洋の渚に飛沫を上げて駆け巡る。荒野の凸凹道を弾んで走れば、脇の草原にエミュー(ダチョウに似た鳥)が併走。そんな中、最後部座席から男児の絶叫が響き渡り乗客も騒然となった。後編に続く…
(令和元年10月号)