永井 明彦
はじめに
中国の武漢市発祥の新型コロナウィルスCOVID-19(2019-nCoV、SARS-CoV-2)が猛威を振るっている。2月29日には、時間の問題だったが、初めての感染者が新潟市でも確認され、米国でも初の死者が報告された。10年前に新型インフルエンザ(A/H1N109pdm)がパンデミックとなって日本に上陸した折に「新型インフルエンザは怖いか?」と題した一文を新潟県医師会報に投稿したことがある。COVID-19は特殊な肺炎を併発するというので、痩せても枯れても呼吸器内科医の端くれとして、大いなる関心を持って今後に備えるべく、この拙文を投稿し、ご批判を仰ごうと思う。
怖れるべきはインフォデミック
中国政府とWHOが言わば“悪魔の握手”をして拡がった新型ウィルス感染症だが、当初WHOは、今回の新型感染症は「パンデミックでないエピデミックなアウトブレイクに留まっているが、根拠のない偽情報が大量に拡散するインフォデミックが起きている」と注意を喚起していた。しかし、最近は「ウィルスの重大な変異はみられないが、パンデミックになる潜在的な可能性を秘めている」と警戒感を強めた。かの寺田寅彦博士も浅間山噴火の際に「正当に怖れよ」と宣われたが、新興感染症を“正しく怖れる”には、誤った情報に振り回されてパニックに陥ることなく、正確な情報を得る必要がある。浮き足だったメディアや政治家の言葉に惑わされず、COVID-19は数ある新興ウィルス感染症の一つとして冷静に捉えることが肝要だと思う。今回の新型ウィルス感染症対策では、純粋な感染症医学的な問題と公衆衛生学的アプローチなどの問題が絡み合って対応を複雑にしているので、様々な角度から情報を整理してみたい。
ウィルス感染症としての諸問題
3月2日現在、COVID-19の感染者は中国では8万人を超え、死者は2900人となりSARSによる死者数を瞬く間に凌駕した。しかし、その致死率はSARSの9.6%、MERSの34.5%に比べれば遙かに低い。軽症者が把握されていない武漢の感染者数は40倍に上るとも言われており、医療崩壊の起きた同市の見かけ上の致死率3.5%はかなり高いが、中国での湖北省以外では致死率は0.17%と低く、インフルエンザの0.02%をやや上回る程度である。
人に感染するコロナウィルスは全部で7種類あり、4種類は一般的な風邪のウィルスとして多くの子供が感染する。コロナウィルスゲノム(全遺伝情報)の塩基配列に共通する部分があり、子供達は乳幼児期にしょっちゅう風邪をひくことによって新型コロナウィルスに対しても何らかの交差免疫を獲得している可能性が高く、幸いなことに中国でも子供の犠牲者はほとんどいない。ただ、米国ではインフルエンザが今年大流行し、変異したB型ウィルスで多くの子供達が犠牲になったことは、皮肉で痛ましいという他はない。今シーズン、日本ではインフルエンザはあまり流行していない。記録的な暖冬のせいもあるが、ひょっとしたら既に蔓延しているCOVID-19と競合して発生が少ないのではという怖ろしい可能性も否定できない。新型肺炎を警戒して手洗い、マスク装着、アルコール消毒をする人が増えたのが主な理由かも知れない。
COVID-19はウィルスの発生源とされる武漢市の海鮮市場で、販売ルートにあったコウモリから希少動物のセンザンコウを介してヒトに拡がったのではないかと言われており、既に昨年11月下旬にヒト・ヒト感染が始まったのではと推測されている。しかもこのウィルスは構造が異なる2つのタイプ、即ち遺伝子を構成するアミノ酸配列の一部がLeucineのL亜型(70%)と、SerineのS亜型(30%)が存在することが解ってきた。L型はSARSのように感染力が強く重症化しやすいが、拡がり方は限定的である。一方のS型はコウモリから検出されたコロナウィルスに遺伝子的に近い古い型で、症状は軽いが、感染は遷延するらしい。L型は武漢で爆発的流行が起きた時期に多く確認されたが、1月初旬以降は減少してきている。
感染様式と新型肺炎の臨床像
この新型ウィルスは飛沫感染や接触感染で感染するが、エアロゾル感染という空気感染に極めて近い感染様式も指摘されている。飛沫感染より感染力が強く、換気の悪い密閉空間で集団感染をきたすようだ。ライブ空間やスポーツジム、卓球大会などでのクラスター感染の可能性が報告されているが、そのエアロゾル感染が伝播様式なのかも知れない。また、涙を介して感染するという報道もある。乾燥したドアノブなどに付着しても、普通ウィルスは半日程度しか生きられないが、COVID-19は6日も生存するとの報告もあり、生命力の強いこの厄介なウィルスの伝播には接触感染が果たす役割も無視できない。基本再生産数という指標で表すウィルスの感染力は2.2人で、インフルエンザやSARSと同じレベルだとのことだが、感染様式や拡がり方をみていると実際の基本再生産数はもっと多く、感染率はインフルエンザは勿論のこと、SARSやMERSよりも遙かに高い。新型ウィルスの表面タンパク質分子がヒトの感染標的細胞に付着しやすい立体構造をしているとの報告もある。中国での重症化率は当初は23%と高かったが、感染者数が増えるに従って低下し、13%まで低下している。武漢での医療従事者の重症化率は6.7%であり、重症化率は感染者の総数が掴めないために過大に評価されるが、その点、医療従事者の重症化率は正確で貴重なデータである。現時点で我が国では不顕性感染を含む軽症が82%、重症が14%、重篤ないし死亡例が4%を占めるが、重篤な症例の半数が回復しているという。感染者の8割が他人に感染させていないともいわれており、ひょっとしたら日本でもL型ウィルスが減って、S型が流行の中心になっている可能性がある。
COVID-19感染は感冒や上気道感染と同様に発熱と呼吸器症状で始まるが、結膜炎で発症する場合もあり、日本眼科学会は会員に注意を喚起した。武漢で最初に殉職した医師は眼科医だった。ゴーグル着用の必要性を強調する論文もある。また、初期にはSARSでみられた嘔吐や下痢(3%)も報告されている。
重症例では高熱、倦怠感、乾性咳嗽、DOE(体動時の息切れ)が加わり、白血球増多はないがリンパ球が減少し、CRPは中等度陽性でLDH値が上昇、PTTが延長する。下気道感染としての肺炎は胸部CTでみる限り、辺縁性ないし限局性のスリガラス陰影が主体で、air bronchogramを伴うような濃厚な肺胞性肺炎様浸潤影や胸水や肺門リンパ節腫脹は認められない。コロナウィルスはⅡ型肺胞上皮細胞上のレセプターであるACE2を介して上皮細胞内に侵入し、間質の炎症を惹起する。喫煙は肺胞上皮細胞のACE2発現を増強し、禁煙でウィルス結合性が低下する。中国人を始めとして、喫煙者の多い東アジアの人間はACE2を規定する遺伝子比率が高いことも解っている。喫煙や加齢で損傷された肺がCOVID-19の侵襲を容易にするようだ。いずれにせよ、基本的に新型肺炎はウィルス性間質性肺炎でⅠ型呼吸不全を来たすが、多くは人工換気が必要になるほどではない。人工換気が必要な場合には、挿管してレスピレータを装着するのを避けてNPPV(非侵襲的陽圧換気)を使用しないと、武漢の大学病院のようにウィルスを飛散させて院内感染を招いてしまう。またARDS(急性呼吸窮迫症候群)の治療に用いるECMO(体外式膜型人工肺)が必要になるケースもある。持病のある高齢の感染者に不用意にNSAIDsを使用するとcytokine stormをきたし、DAD(びまん性肺胞障害)やARDSに至り、MOF(多臓器不全)で死亡する。
COVID-19の治療
このウィルスは「狡知で陰湿であり、決定的な治療法が存在しない」と上海中山医院の胡必傑教授は言う。カレトラなどの抗HIV治療薬が有効との報告があったが、副作用としての下痢が高度な上に治癒との関連性が不明で、推奨されていない。高病原性鳥インフルエンザH5N1の流行に備えて、200万人分が国に備蓄されているアビガン(ファビピラビル)は、同じRNAウィルスのエボラ出血熱に効果があったRNA複製阻害薬だが、中国科学技術部の少数例の報告でも最も有望とされ、治療の切り札になるかも知れない。催奇形性があり妊婦には使えないが、我が国でも試験投与が始まるようだ。他に期待されるのはレムデシビル、リン酸クロロキン、インターフェロン、さらに漢方薬の「清肺排毒湯」も有効であり、治癒患者の血漿に著しい治療効果があるとの報告もある。直近では気管支喘息治療薬である吸入ステロイドのオルベスコ(シクレソニド)に抗ウィルス作用があり、重症患者に有効だったとのレポートがあった。
遺伝子増幅(PCR)検査と簡易迅速診断
COVID-19感染の診断は、現時点では遺伝子検査(real time PCR検査)に頼らざるを得ない。PCR検査は2月までは感染を疑っても帰国者・接触者外来を通したルートで公費負担の“行政検査”として国立感染研か都道府県の衛生研でしか検査できなかった。しかも、入院が必要な重症肺炎患者でないと検査を断られた。2月までは保健所を通したルート以外で検査をすると、医療機関の持ち出しはおろか、混合診療とされる可能性があった。
PCR検査を保険に収載して大学の研究機関やSRLやBMLなどの大手の民間検査会社を競争に参入させれば、瞬く間に国内でもウィルス検査が広く行われるようになり、国民の不安を解消し、国内の感染状況を正確に把握し、感染の拡大を防ぐことに繋がるのではないかと思っていたら、3月第1週に漸く公的保険が適用されることになった。100万人のPCR検査をしても1件1万8000円程度だから200億円を下回り、国が全額を負担してもオスプレイ一機分だ。民間の検査レベルも上がっており、感染研などと比べても遜色ない。国内の民間検査会社は約100社あり、全体で900のラボを持つという。それぞれが1日100検体を検査すれば9万件に上り、韓国と遜色ない検査体制を構築できる。検査要件をできるだけ緩和して“検査難民”を減らしたいものだ。ただ、COVID-19は指定伝染病に指定されたためにPCR陽性だと入院させなければならず、検査数を増やすと医療機関がパンクする心配がない訳ではないが、法律の解釈や運用を変更して軽症者は自宅待機させればよい。さらに家族への感染を避けるために旅館やホテルを借り上げ、隔離療養施設(サナトリウム)として活用する方法もある。
民間のPCR検査を認めてこなかったのは、厚労省と一体である国立感染症研究所(旧陸軍伝染病研究所)の検査法の独自開発に予算を付けてしまったからか、或いは東京五輪開催という至上命令のために汚染国のイメージを嫌い、国内での患者発生数を小さく見せようとしたからではないか。予算も人も大幅にカットされた感染研のOBが、衛生研から上がるデータを独占して自身の研究業績に結び付けたいから民間の検査を止めていたという、他の感染研OBからの衝撃的な告発もある。
ところで、新潟市の初感染例で判明したように、最初に陽性患者を診た医療機関が2週間診療を自粛しなければというのは死活問題である。日医は国が何らかの形で休業補償をするべきと要求し、ウィルスが蔓延しているとすれば、診療を自粛しても意味がないとの疫学的意見も具申すべきだ。今後は軽症例は全ての医療機関で対応し、指定病院が重症例の治療に当たる体制の確立が必要になろう。
既にウィルス分離に成功しており、国内でもELISAやイムノクロマト法などを利用した簡易抗体検査キットの開発が進んでいるものと思われる。SARSの場合は半年で流行が終息してしまい、検査キットの開発は中途で断念された経緯がある。コロナウィルスはインフルエンザやエイズやエボラ出血熱ウィルスと同様の一本鎖RNAウィルスであり、エンベロープを持つためアルコールで失活するが、DNAウィルスと異なって変異しやすい。そのために簡易検査の開発には時間がかかる可能性がある。エボラ出血熱ウィルスの検査キットを手がけたデンカ生研が、五泉の鏡田工場を拠点に15分以内に診断できる簡易検査キットの開発に乗り出した。中国では微少流体チップ技術を応用して従来のPCR検査の時間を短縮する装置を開発し、さらに理化学研究所と神奈川県衛生研究所は、温度調節が不要で遺伝子の増幅にかかる時間を一般的なPCR法の6時間から20分へと大幅に短縮したSmartAmp法を開発したと発表している。
臨船検疫と公衆衛生学的アプローチ
武漢が封鎖された日、既に武漢からの避難旅行客が9000人も成田空港に降り立ったという。その中に無症候性の隠れウィルスキャリアーで「チフスのメアリー」のようなスーパースプレッダー(中国語で「毒王」)がいて、札幌の雪祭りに参加するなどして北海道での感染拡大に寄与したのかもしれない。イタリアのロンバルディア州でもサッカー試合やハーフマラソンに参加した毒王がいたという。WHOが当初長くても12.5日(平均5.2日)としていた潜伏期間が、最長24日間だったという報告もある。日本国内でも感染経路が不明で疫学的リンクが追えない市中感染が起きており、我が国はアジアでは中国と韓国に次ぐ感染蔓延地となりつつある。経済的利益のために隣国の中国という大国に遠慮して、現在の窮状を招いたとも言える。
厚労省は今回もピントのずれた「水際対策」に拘り、国内での感染拡大抑制対策が遅れたA/H1N109pdmの流行時と同じ過ちを犯した。しかも無益な臨船検疫に固執するあまり、横浜に寄港したクルーズ船のダイアモンド・プリンセス(DP)の乗客を降ろすタイミングを見誤り、感染と非感染のゾーンニングも不充分で“船内”集団感染を招いてしまった。実はDPには乗客が体験できるカジノ施設があり、IR(統合型リゾート)誘致に熱心な横浜市に寄港した理由はそこにあるのだが、皮肉な結果と言うしかない。以前は外国籍の船舶を管理する権利は船籍のある国にある(旗国主義)とされていたが、グローバル化により対応できない事案が増え、船舶が寄港する沿岸諸国が管理する権利(寄港国管轄権)が拡大している。DPは英国船籍だが、乗客の国籍は各国にまたがり、対応困難な初めてのケースであった。高齢の日本人が多数乗船しているという特殊な状況であったにしても、厚労省には先を見据えた防疫という観念が欠けていたと言わざるを得ない。
欧米メディアは「閉鎖空間である船内に留めることで感染のリスクを高め、公衆衛生危機の際に行ってはならない対応の見本」だと批判し、DPは武漢に次ぐ新型肺炎の「第2の震源地」だとか、「海上のペトリ(培養)シャーレ」のようだと散々な言い方をしている。米国内で船内に乗客乗員を待機させ続ける日本政府の対応を疑問視する声が高まり、チャーター機で米国人客らを帰国させ、他国もそれに続いた。当初は船内での検疫はよくやっていると、米国大統領は自国に帰国させることを断ったという。船内感染を怖れるなら何故、米国人乗客を米軍基地内に隔離しなかったのだろう。横田基地の汚染を忌避したのだろうか。ことの真偽はさておき、日米地位協定には抵触しない形で、米国が治外法権を行使しなかったのは謎である。そして、直近の情報として、DPを運行していたプリンセス・クルーズ社所有の姉妹船「グランド・プリンセス」が、ハワイから戻ったあとDPと同様の事態に陥り、サンフランシスコ沖に停泊させられている。このクルーズ船の下船者の中に新型肺炎で死亡したアメリカ人男性が含まれていたという。約2500人の乗客の半数はカリフォルニア州民で、感染の可能性がある100人が緊急検査を受けている。実はアメリカも日本と同じくPCR検査が充分に行われていない国であり、米国政府の対応が注目されるところだ。
厚労省の当事者能力と政府の目論見
DPで臨船検疫にあたった厚労省職員(延べ90人)の内、発熱なく無症状の職員43名が、初期対応のDMATの医師も含め、ウィルス検査を受けずに元の職場に復帰したというのには驚いた。何とその理由が陽性者が多く出た場合の厚労省の業務への影響が大きいと懸念したからだという。結局、検疫業務にあたった政府職員やDPATの医師など8名もの感染が明らかになっている。緊張感も危機感も責任感も欠如していたとしか思えない。PCR検査が陰性化した乗客が下船後に公共交通機関を使って帰宅し、再び検査陽性となったケースが栃木と仙台と静岡であった。中国で14%の再燃患者がいると報告されているにも拘らず、再隔離せず、危機管理能力のなさを露呈した。厚労省の医系技官や政府の専門家会議に臨床医がいないという問題を指摘する向きも多い。米国CDC(疾病予防管理センター)の医系技官には、第一線の病院で週に一度は外来患者を診療する義務が課せられ、肌で感じた医療現場の空気や問題が医療政策に反映されている。厚労省の医系技官にも医療の現場と本省を往き来しながら絶えず実情にマッチした医療政策を考えることを期待したい。
一方で、政府は船内の発症者数を日本人患者数にカウントしないで欲しいとWHOや報道機関に要請し、新感染症のアウトブレイクに対応するWHOへの協力金として1000万ドルを拠出した。お金に物を言わせて国内の感染者数を少なく見せようとしたのは問題だ。観光立国や成長戦略の目玉としてのインバウンド依存による経済政策には、どだい無理がある。さらに言えば、新型肺炎対策に手を拱いてダメージコントロールできないでいる裏には、実は改憲して緊急事態条項の制定が必要ではと国民に思わせる火事場泥棒的な目論見がありそうで不安になる。挙げ句に新型肺炎の流行が及ぼす社会保障費の増大に備え、財務省OBが所属するIMFに消費税を15%に上げるべきと提言させるに至っては、何をか況んやであり、こういった政府の姿勢が初動の遅れや付け焼き刃的な対応を招いたのではないだろうか。2月27日に政府は唐突に全国の小中高校に臨時休校を呼びかける異例の要請をした。対策が後手に回っているという批判が高まり、内閣支持率も下落していることを受け、官邸が指導力をアピールしようとしたようだ。インフルエンザと違って潜伏期間の長いCOVID-19の場合、学校閉鎖に効果があるとは思えない。子供はコロナウィルスに感染しても軽症で済むし、休校で感染者が減るという科学的事実は乏しいと言う識者も多い。親が仕事を休めない家庭への影響も大きい。北海道では看護師が子供の世話で出勤できなくなり、外来業務を休止した病院がある。大切なのは高齢者介護施設へのCOVID-19の侵入を如何に防ぐかという公衆衛生上の戦略である。
おわりに
3月2日、WHOは韓国、イタリア、イランとともに日本を感染拡大の「最大の懸念国」に指定した。我が国は今のところPCR検査実施数が圧倒的に少なく、感染実態が捕捉されていないため、実際の感染者数は公表された数値より遙かに多いと考えられている。残念ながら日本は世界から特別な「汚染国」と思われていることを、肝に銘じなければいけない。
パンデミックとなる可能性が高いCOVID-19の流行を抑えるには、感染や流行のピークを低く遅く後ろにずらして抗ウィルス薬やワクチンの開発を待つしかない。新興ウィルス感染症は集団免疫が構築されて大体が湿度が高く暑い夏に終息する。A/H1N109pdmは2000万人の日本人が感染して11ヶ月で終息し、SARSは6ヶ月で終息したが、COVID-19が同様に半年で終息するかは不明である。真夏の南半球で感染が拡がり、赤道直下で高温多湿のシンガポールでも感染者が100人を超えており、COVID-19は暑さにも強いようだ。感染性の強さも相俟って終息するにはある程度の期間を要するかも知れない。流行が思ったより長引き、東京五輪を3ヶ月ほど延期して秋に開催できることになれば、米国NBCの放映権料をキープしたまま真夏の暑熱対策が不要になる。そうなれば「災い転じて福となす」ことになり、不幸中の幸いとも言うべきベスト・シナリオだが、有力なIOC委員が延期や中止をほのめかしており、希望的観測は決して許されない。
今回のような中央集権型の危機管理では国民不在の姿勢が目立ち、DPに乗った4000人の対応にも苦慮した。数十万人単位の被災者が出た東日本大震災では、市町村や都道府県にある程度の権限を委譲して対応できた。検査体制だけでなく医療看護体制も国に依存せず、地方に権限を委譲し、地域の実情や医療資源に応じた対策を講じるべきであろう。
日本の全土が武漢化して、オリンピックどころでなくなり、リーマンショックを上回るコロナショックが起きることがないよう祈りつつ、多くの情報を整理しきれないまま記載し、長文に堕したことをお詫びして擱筆したい。
(COVID-19に関する種々のデータは2020年3月2日現在のものを参照した)
山川異域 風月同天
道不遠人 人無異国
(令和2年3月号)