田村 紀子
2020年1月、武漢の感染騒ぎがニュースになり、日本からマスクを大量に中国に送っている中国人のニュースが流れていた。自国製のマスクを外国で買って自国に送るなんて、複雑な思いをしているだろうなと思って見ていた。その後、何気なく当院のスタッフに「うちのマスクの在庫大丈夫かな。少ないようだったら注文しておいてね」と言ったら「先生、今はどこに発注しても全くなくて、いつ入ってくるかわからない状態なんですよ!」と言われた。日頃、私はマスクをほとんど利用していなかった。難聴気味の患者や高齢の患者は、私がマスクをしていると話が聞き取れないらしく、聞き返されることがあった為だ。スタッフ達は日頃からマスクを使用しており、在庫管理は彼女たちが行っていて、在庫に関して私は無知だった。それ以降マスクの入手に悩む日々が始まった。これまでスタッフは一人あたり1日2~3枚使っていたとのこと。「今日から1日1枚にして、中にガーゼを入れて使って下さい」とお願いした。そして私は通勤途中や休日は市内の薬局、量販店、スーパーマーケット、電気屋さん、書店(たまに置いてあった)にマスクを求めてさまようこととなった。東京にいる娘達や県外の親戚にも「見つけたら少しでもいいので買っておいて!」とお願いした。しかしかき集めても60枚がやっとだった。ネット通販を見るとあまりの非常識な値段に怒りを覚えた。政府はマスクを量産すると言ってはいるが、いったいどこに流れているのだろうか。マスクを回す優先順位として高いのは、コロナの重症患者を引き受けている病院や高齢者施設などだろう。でもコロナとわからず診察しているかも知れない診療所にマスクがないというのも納得できない。たまりかねて県や市医師会に電話をしたが、担当者も「困っている」と言うばかりで対策はないらしい。それならば作ろう、と思い立って手芸品店に行ってみた。マスクの作り方の説明書と布が入ったセットが置いてあったので手にとってみていたら、どんどんお客が来て、30分くらいでセットの入った籠が空になった。店の人は「すぐに売り切れるので発注しているのですが、品薄でなかなか入荷しないんですよ」と言っていた。私は2セット購入した。鼻部分のワイヤーはモールで代用し、耳のゴムはパジャマ用のゴムを使うことにした。マスク用のガーゼやゴムはまったく入荷しないとのことだった。久しぶりにミシンを出してきて2セットから計10枚のマスクを作った。こんなマスクでもないよりはましか、と自分を慰めた。使用後は80度のお湯に10~20分浸してから洗濯をすれば良いらしい。院内のサージカルマスクが底をついたら、最後の手段として使おうと思っている。
(令和2年4月号)