高橋 美徳
今年のサンマ漁は過去最低だった昨年の水揚げをさらに下回ると予想され、型も小さくなっているという。一方、漁獲量が激減していたマイワシは獲れていて、函館港で魚群が酸欠のため大量死を起こした。海の異変は地球温暖化、海水温上昇のためばかりでもなさそうだ。
お笑いタレントで小説家の又吉直樹氏が進行役を務めるNHK Eテレ『ヘウレーカ』で、クラゲを題材に取り上げていた。番組中で北里大学海洋生命科学部の三宅裕志准教授が、近年世界の海でクラゲが大増殖し、jellyfish bloomsと呼ばれていることを紹介してくれた。クラゲは海水浴の時に避けていれば無害で平和な生き物だと思っていたが、生態系ピラミッドの中では比較的上位に分類される生物だそうだ。触手の刺胞による刺し網で魚を獲り、食料としていて、キロネックスのようにヒトを死なすほどの毒を持つ種もいる。
ヒト1人が毎年20キロの魚を食べていくと、これから数十年のうちに魚は消え失せ、クラゲとプラスチックしか見つからない海になってしまうという。ヒトが流出するプラスチックはクラゲの固着形態であるポリプが付着できる土台を提供していて、大増殖の原因かもしれないと言っていた。
山形県鶴岡市の加茂水族館は、クラゲのおかげで廃館を免れた。当時北陸の漁業はエチゼンクラゲの大量発生により大打撃を受けていたが、それを逆手にとって癒やしのクラゲ展示をはじめたのだ。今では世界一のクラゲ水族館・クラゲドリーム館として年50万人を集客する観光名所となった。荘内病院勤務医であったころ何度も旧加茂水族館を訪れたので、徐々に寂れていくのが直に感じられたが、その当時からクラゲアイスやクラゲラーメンを提供していた。今年はエチゼンクラゲがより巨大化して、大量に日本近海に現れそうだという。400種以上いるクラゲの中で食用とされるのは20種程度とのことだが、今後新たな食品として売り出されてくるかもしれない。癒やしと食で地球の救世主となってくれるだろうか。ベニクラゲは成体が死ぬほどのダメージを受けると、ポリプ状態に戻り再生することが知られ、不老不死の生物といわれている。クラゲ研究の成果は、今後のヒト生存のために有益な情報をもたらしてくれる可能性を秘めている。
(令和2年10月号)