山﨑 芳彦
2頭のトンボがつながって空を飛ぶ光景は、誰でも見たことがあろう。通常の連結は、交尾の準備状態で、オスがメスを他のオスに横取りされないよう監視するためである。オスはメスの首を尾の先端で挟んで連結するため、後がメス、前がオスとなる。団子のように丸くなっていることがあるが、これは交尾状態である。トンボを追いかけていると、ときに予想しないような希な場面に遭遇することがあるが、そのひとつがトンボの3連結である。これは文字どおり3頭のトンボが連結するもので、6種類のタイプが知られている。今までに、多数の2連結のノシメトンボに混じって、3連結のトンボが悠々と秋空を飛んでゆくのを2回目撃したことがある。あっという間のことで、写真を撮る間もなかった。ここでは、写真を撮ることができた3例について紹介したい。
第1例 コサナエ:不均翅亜目、サナエトンボ科の体長45mm位の緑がかっているトンボである。2001.5.27昼頃、村上市の桃川峠のため池の脇で目撃した。天候は晴れ。ここにはコサナエが多くみられた。目の前で突然3頭が絡み合って、オス、メスが連結、さらに別のオスの腹部副性器にメスの腹部先端が接合した(写真1a)。従って、最後尾のオスの腹部は宙に浮いている。すなわち、先頭のオスとメスが交尾姿勢に入ったところに、別のオスがこのメスと交尾する形になった。オス、メスが連結した後に他のオスが交尾に加わったものでなく、同時に3頭が突然絡み合ったためこのような複雑な形になったものであろう。あわてて、車に置いたカメラを取りに走り、なんとか間に合ったが、2枚しか撮影できなかった。写真では、オスメスの位置関係が分かりにくいため、その様子を図示する(写真1b)。
第2例 アオイトトンボ:均翅亜目、アオイトトンボ科の全身がエメラルド色にかがやく美しいトンボで、体長は約40mm。2014.9.14 午後1時30分頃、村上市高根の池において、マダラナニワトンボなどの保護を目的とした草刈り作業中に発見。周囲に知らせて数人の目で観察した(写真2)。周囲にはアオイトトンボが多かった。この池は、高地の湿原にあり、浮島が多く、所々深い開放水面が見られる。周囲の草地は水深20-30cm位で、スゲ、マコモ、葦、ミツガシワなどで覆われている。15分くらいその場で観察したが、3連結のまま飛び去り、後を追ったが見失った。
第3例 アオイトトンボ:2017.10.1 午前11時半ころ、上記の池から近い別の池で、マコモの根元近くに止まっているところを観察、撮影した(写真3)。数人で目撃したが、観察していると、先頭のオスのところに別のオスがきて、少し喧嘩をしたあとオス同士が入れ替わった。これを2-3回くりかえした。この様なオス同士が入れ替わる場面は観察例がない。その後、先頭のオスの連結が解けてしまい観察を中止した。
3連結のタイプに6種が報告されているが詳細は省略する。3連結については、全国的には不均翅亜目に多いといわれ、サナエトンボ科、カオジロトンボで見られ、均翅亜目のオオアオイトトンボ、アサヒナカワトンボなどでもみられるという。第1例は、♂-♀+♂の複雑な連結で、この型はサナエトンボ科に多く見られる。-は交尾なし、+は交尾をしていることを表している。第2例、第3例は♂-♂-♀の連結で最も多い形であった。新潟県における3連結の報告は少なく、カオジロトンボ、ノシメトンボ、アキアカネでみられ、最近報告されたコサナエの3連結例は、♂-♂+♀の希な型であったという。
3連結する理由は、特に目的があるわけでなく、たまたま、2連結に誤って他のオスが気付かず連結したか、突然の連結で2頭か3頭かを確かめる間もなく3頭が連結したものであろう。3連結などの、まれな動態は、偶然出会うもので、常に撮影できる準備をしておかないと特ダネを逃すことになるので、いつもカメラを携えておくことが重要である。最近は、スマートフォンの解像度が飛躍的にアップし、シャープかつ迅速に写真が撮れるようになった。
(日本トンボ学会、越佐昆虫同好会 所属)