関根 理
医師会活動に関しては、信楽園病院時代も、現在も班単位の行事以外は殆ど関わりがなく、時々会報に学術やエッセイを載せてもらう程度だった。そんな人間に600号記念に何かといわれても、今さら立派なことが書けるわけがない。今回はわが愛する新潟について、普段もどかしく思っていることを綴るにとどめてお宥しを得たい。
だいぶ前の話である。関西の知人から梨が送られてきた。梨なら新潟平野で沢山採れる。何事かと思ったら、わざわざ山陰の名産「20世紀」を贈ってくれたのだった。新潟にはこんな立派な果物はないと思ったのだろう。だが、20世紀といえば、新潟ではお盆を過ぎた頃から西蒲で採れたおいしいものを子供の頃から食べていた。てっきり新潟が本場だと思っていた。聞いてみると他県では新潟の20世紀など知らず、山陰が本場だということになっているという。お気持は有難かったが、味は新潟産の方が瑞々しくておいしかったように思う。世紀が変って今はこの名の梨は残っているだろうか。
「金沢の方に行くと“甘えび”という小さなおいしいえびがあるんだが、新潟にはありますか」と、名古屋の友人に聞かれて驚いた。子供の頃から食べていて、新潟、山形が本場だと聞かされていたからだ。“名古屋からは金沢の方が近いからな”とつくづく思わされた。「勿論ありますよ、新潟が本場のはずです」などと威張ってみせたものの、“南蛮えび”という呼び名は新潟だけだったのかと、いささかがっかりしたものだった。
親しくしていた西宮の社長様が入院された。家内と一緒に見舞に行った。梅田の地下街に紛れもない「ル・レクチェ」を売っていたので手土産に買って行った。「新潟の洋梨です。有名な山形のラ・フランセではなく、ル・レクチェという、新潟自慢の果物です」と、くどい程念を押して置いてきた。しばらくして礼状が届いた。「ラ・フランセおいしうございました」。やっぱり新潟産は全国区たり得ないのか、いささか落ち込んでしまったことだった。
冬、佐渡で獲れる寒ブリは天下一品と思っていた。毎年、日本海が荒れてくると血眼になってイキのいい寒ブリを買いに出る。ところが世間では寒ブリのブランドは能登産(氷見)ということになっている。実際、食べてみればどちらがどうというわけでもないのだが、一般の評価はそうなっている。新潟でもそう思っている人がいる。以前、政財界の有名人が数人で「佐渡の寒ブリを食べる会」というのを毎年鍋茶屋で催していたそうだ。知る人ぞ知るであるが、地元も少しは声を上げてもいいのでは。
どうも新潟はPRが下手なようだ。というより、PRを敢てやらない習性があるようだ。「自分から言わなくとも、わかる人はわかってくれるさ」と考える傾向があるのだろう。「新潟は米と酒と魚はうまい」とこれは広く言われてきたが、どうもそれだけで満足してきたように思われる。近年野菜、果物、牛肉、ワイン等々全国レベルにあると思うのだが知られていない。新潟市の場合、近年雪は昔ほど沢山降らない(今年の雪などは昔は小雪の部類だった)し、暑さ、寒さもそれほど厳しくはない。街はそこそこきれいだし、周辺の自然にも恵まれている。初めて新潟に住む人はどんな厳しいところかと、心配しながら来るそうだが、住んでみて去るときになると、“こんなに住み心地のいいところから動きたくない”という人が多いそうだ。
行政も地元のマスコミも、「住みよい新潟」を広く売りこんでいいのではないだろうか。
(令和3年3月号)