木村 洋
「滝の上に水現れて落ちにけり(後藤夜半)」滝は魅力的で何とも神秘的でもあります。吉屋信子は冒頭の句をもじって「滝の上に人現れて落ちにけり」なら面白いのにといったとか。確かに滝壺を見ていると吸い込まれる感覚に捕らわれることがあります。人生不可解として華厳の滝に飛び込んだ藤村操の例もあります。日本の滝は信仰の対象になっているものも多く、優美さや繊細さが魅力的でもあります。それに対して、世界三大爆布といわれる滝は日本の滝からは考えられないスケールです。ナイアガラとイグアスの滝へは行ったことがあります。ナイアガラの滝は映画『ナイアガラ』でのモンローウォークで一躍有名になりましたが、上から下から、船上から水をあびながら、滝の裏側からといかにもアメリカ的でショー的要素で楽しませてくれます。一方イグアスの滝は大自然そのままです。ブラジルでの学会の後に立ち寄りましたが、馬蹄形の大きなアーチからゴーゴーと落ちる水量を見て、想像を絶する壮大さに圧倒されました。ヘリコプターからの眺めは今も忘れられません。また、広大な大地と緑を見て何が豊かさか考えさせられました。
閑話休題、ブラジルでの思い出といえば三十年以上前にリオのマラカナンスタジアムでジーコのいたフラメンゴの試合を見たことです。まだJリーグは始まっておらず、本場のサッカーに興奮しました。しかし、熱狂的なサポーターが多く、現地ガイドから試合終了5分前には競技場を出ないと命の保証はしかねると言われ、後ろ髪を引かれる思いで競技場を後にしたことを思い出します。
話を戻して死ぬ前に行ってみたい所はアフリカのビクトリアの滝です。原住民の言葉で「雷鳴轟く水煙」というそうです。長さ・落差はそれぞれ世界一ではないようですが、長さ×落差では世界一のスケールで、写真を見ても雄大さが伝わってきます。ラグビーワールドカップ、フランス大会を見て、その足でビクトリアの滝へと見果てぬ夢を見ています。齢70を過ぎましたので、旅は足腰の立つ元気な内に!
「落ち着いて死ねそうな草萌ゆる60にして(山頭火)」
(令和3年4月号)