山﨑 芳彦
山﨑 洋大
数年前、父子でケニヤ・サファリツアーに参加してきた。この時、マサイマラの村を訪問したが、その様子については2018年1月の本誌で紹介した。今回は動物とのふれあいを中心にその思い出を述べてみたい。テレビで、猛獣が狩りをする場面や、乾季の命をかけた移動の様子などが放映されるが、観光を主としたサファリツアーでこれらの場面に遭遇することはまずない。せいぜい野生動物の生の状態を見られるだけだが、それだけでも広大な自然の中を悠然と動き回る姿は感動的である。
ツアーはナイロビから軽飛行機で目的地に向かうのが、時間的にも効率的である(写真1)。ナイロビを出発して間もなく、アフリカ大地溝帯の上空を横断する。階段状に大地が裂け、溝になっているのが上空からだとよくわかる。この地溝帯の中で人類が生まれ、現在も多くの野生動物の葛藤が営まれているのを見ると感慨深い。滑走路は草地か、むき出しの土で、滑走路を示すのに動物の白骨死体を並べているところもあり、さすがアフリカと感じる。飛行機が目的の滑走路に近づくと、まず迎えの車が滑走路を走り、滑走路の動物を追い出す。こうして、動物のいないことを確かめてから降りるのだが、この間にまた動物が入り込めば着陸やり直しで、パイロットもうっかりできない。
ツアーは4輪駆動車のトラックを改造したものが多く使われる(写真2)。座席の改造と屋根をキャンバスで覆っただけのものが多い。側面はむき出しで、猛獣が飛び込んでくればひとたまりも無いが、実際はこのようなことはないとのことだ。動物は日中、動かないことが多いので、昼から夕方4時くらいまではツアーも休憩である。夕方になるとサバンナといえどもかなり高地であり、気温が下がるので、ウインドブレーカーは必須で、車の中にも毛布が備えてある。
さて、準備が整うと出発である。とにかく、非舗装の道なき道を動物を探して走り回る。どこに潜んでいるかわからないので、ひたすら探し回るしかない。多くの人にとってライオンが1番人気であるが、そう簡単には見つからない。2〜3頭の群れだと、ブッシュに隠れて1日かけても見つからないこともあるという。運良く見つかると、サファリーカー同士が無線で連絡し合い、あっという間に数台集まる(写真3)。ライオンの群れはあまり会わないが、それでも出会うと迫力満点である。移動する場面は百獣の王の貫禄がある(写真4)。車に取り囲まれたライオンは我関せずとばかりに草むらの中に寝そべっている。これだけ車が近づいても平然としているのは、動物が人間になれているためか、ガイドもどこまで近づいて良いか心得ているためであろう(写真5)。ライオンと人間のどちらかがしびれをきらしてその場を離れるまで続くが、その間聞こえるのはシャッターの音だけである。
一番数の多い動物は、鹿の一種で、大きさも鹿よりやや小さめのインパラだと思う。数十頭で群がって草を食べている。10cmくらいの短い尻尾を絶え間なく左右に振っているのがかわいらしい(写真6)。しかし、これだけ数が多いと、2〜3頭くらいライオンの餌食になっても仕方ないかと思われてくる。他にも猛獣の餌食になってしまう小動物は数多い。
ライオンに次ぐ人気動物は象であろう。草むらで20〜30頭がかたまって餌を食べている(写真7)。遠くから見るとのんびりと食べているように見えるが、車で近づくとこの群れの2〜3頭が鼻を振り上げて車の方に向かってくる。このまま向かってきたらどうしようと思わず背筋が凍るが、ガイドは手慣れたもので、その場でじっと待っている。象はこれ以上近づくなと威嚇しているわけであるがガイドの言うとおり、途中まで近づくと、くるりと背を向けて群れに戻ってゆく(写真8)。このような巨体に襲われたらひとたまりもないが、ガイドはその習性を心得ている。実際、象に襲われたという話も聞かない。
セレンゲティ国立公園(タンザニア)とマサイマラ国立公園(ケニヤ)の国境にマラ川が流れている。川幅は数十メートルでそう大きい川ではないが、川に降りるにはかなり急な崖を降り、または上る。ここにはカバやワニが多く棲んでいる。特に川幅が広く流れの緩やかなところはヒッポプールとよばれ多くがのんびりと水浴びをしている(写真9)。この川を、新鮮な草を求めて、オグロヌーとシマウマが川渡りをする。川淵にあるていど集まり一頭が先頭を切ると一斉に川渡りが始まる。シマウマが先頭を切ることが多いという。この時も川渡りの気配があり、1〜2時間待ったが開始されなかった。川には橋も架かっているが、何千年に渡る習性のためか、橋を渡ることはないという(写真10)。この時、ワニの餌食になってしまうヌーが何頭かみられる。渡るときは大混乱で、お互い踏みつけ合ったりしてこれで命を落とすものが多いようである。この時も死んだヌーの死骸があちこち浮かんでおり、ハゲワシが死骸をつついていた(写真11)。このあたりは車から降りて、周囲を観察できるが、銃を携えたレンジャーが監視してくれる。
ムジマスプリングスはキリマンジャロ山からの伏流水で、サバンナでは珍しく、透明の清い水の流れがあり、これが川となり池に注ぎ込んでいる。周囲はパピルスが茂っている(写真12)。ここにもワニやカバが多いが、透明のため泳いでいる様子がよくわかる。サバンナでこういった清らかな水が流れている場所は貴重である。この周囲もレンジャーの監視下で、車から降りて池や周囲の様子を観察できる。
バッファローも、林の中に数十頭が集団で草を食べていることが多く、しばしば見ることができる。体も大きく、近づくと恐怖を感じるほどである。車が近づくと一斉に草を食べるのをやめて、全員で車の方を見つめるのがおかしいし、これだけたくさん集まると迫力を感じる(写真13)。
その他、イボイノシシ、ガゼール、サバンナマンキー、チータ、ヒヒ、ダチョウなどの鳥類など、単独あるいは数頭の群れで次々観察でき、見飽きることはない。名前をガイドが教えてくれるがかなり遠くから見分けられるようだ。狩りや動物同士のけんかなど、迫力ある場面を観光客が見られることはまず無く、紙のスペースもないため詳細は省略したい。暗くなる頃、その日のツアーも終わり宿泊地に戻る。宿泊地は、ジャングルに囲まれた中に数十棟バンガロー風の建物が作られている(写真14)。中央部に食堂や管理施設が集中している。猛獣に備えて、作りは頑丈である。毒蛇も多いので、テント内に入り込まないよう頑丈なジッパーで入り口を閉じる。夜は太陽光パネルかオイルの自家発電があるが、夜10時になると切れる。こういったバンガロー村が池の周囲に作られている。トイレは簡易水洗、シャワーも簡易のものである。池には多くのカバが生息し、時々ブアオーという大きな鳴き声が聞こえる。ワニも多く、池の縁に寝そべっており、池から10m以内には近づかないようにいわれていた(写真15)。食事は、世界の誰の口にも合うような肉中心のinternational foodで、食べ物の味に困ることはなかった。
今回、雄大なアフリカの景色を目のあたりにし、野生動物が動き回るのを見て、狩りなどを直接見ることはできなかったが十分迫力あるツアーであったと思う。この広大な自然と動物の営みが永久に残るように願わずにはいられない。
写真1 ナイロビからサファリ(ツァボ国立公園)に向かう飛行機。
写真2 サファリツアーに使われるトラックの改造車。屋根を覆っただけでサイドシェルはない。
写真3 ライオンがいたと無線で知らせがあると多くの車が集まってくる。この時は、狩りを行いそうだとの情報で一層多くが集まった。何頭かのライオンが車に取り囲まれているがくさむらに紛れて見えない。
写真4 メスライオンの群れ、このような群れに出会うことはあまりないという。
写真5 このくらい近くまで車で近づくことができる。
写真6 インパラの群れ。通常は数十頭いる。弱々しく、猛獣の餌食になることが多い。
写真7 象の群れ。子象も混じっている。
写真8 象の群れ、そう大きな群れではないが、近づきすぎると2〜3頭が威嚇のため車に向かってくる。
写真9 川の中外にいるカバの群れ、水中のカバよりも陸上のカバの方が怖いという。
写真10 川渡りのため河岸に集結したシマウマとオグロヌー。この時は川を渡ることはなかった。
写真11 川を渡れず、死んだヌーの死骸、これをハゲワシがつついている。
写真12 ムジマスプリングス、サバンナでは珍しい清らかな流れがみられる。周囲にはパピルスが繁っている。
写真13 バッファローの群れ、車が近づくと一斉に車の方を見る。
写真14 池の前に作られた宿泊用のバンガロー、この池の中はカバもワニも多い。
写真15 バンガロー前の池の淵に2頭のワニが寝そべっている。
(令和3年5月号)