山﨑 芳彦
若い頃、外国に出かけると、その国や土地の食事を味わうことが大きな楽しみの一つであった。よく日本の観光客が、そう長い外国旅行でもないのに、日本食を注文したり、ラーメンを食べているのを見て、せっかく外国まで来て、と思っていた。しかし、年をとってからの旅行で、現地の食事について行けなくなってきた。
数年前、妻とハワイに旅行し、日本に戻る2~3日前、日本食が恋しくなり、ハワイ島のホテルのレストランで食べられそうなメニューを探した。しかしこれはと言うものが見つからず、マグロの料理とあったものを見つけてこれを注文した。フライパンか炭火で焼かれ、単に塩だけで味付けをしたさっぱりしたものを期待した。しかし、運ばれてきたものは、オリーブオイルなどをたっぷり使用した、こってりしたものになっていた。見ただけでうんざりし、3分の1位しか食べられなかった。
日本に戻る前日オアフ島のホノルルに戻り、パンフレットでラーメン店の案内を見つけ、そこに行くことにした。10人くらい入ればいっぱいになるような小さな店であった。今やすっかり、代表的な日本食の一つになったラーメンだが、すでに、10人くらいの日本からの観光客と思われる人が列を作っていた。カウンターに数席と、4~5個のテーブル席があり、日本の地方でよく見られるラーメン屋そのものの景色であった。メニューの種類は少なく、典型的な醤油味のラーメンを注文した。特に、変わり映えしたものではなかったが、久しぶりのラーメンがおいしくて完食し、ああ日本人だと実感した。
数年前、アフリカに旅行した。この時は中東の航空会社であった。アラブの食事は滅多に味わうことができないと考え、帰りの夕食の機内食はアラブ系の料理を注文した。メインはハンバーグ風の肉の塊を、こってりと油で揚げた様なものであった。食事の内容は手の込んだものであったが、一口二口しか食べられなかった。どうして、外国の食事は、こう油で揚げ、味がこってりしたものが多いのだろう。シンプルに味付けしたものが無いことにも不思議に思い、この点、素材そのものを生かした日本食の特徴を誇りに思った。
朝になり、これでは体が持たないと機内食の最後に、迷わず日本食を注文した。機内食なので、どうせ電子レンジで温めただけのものだろうとあまり期待をしていなかった。大きめのお盆に白米と味噌汁、漬物、茶碗蒸し、焼き魚などがのっており、いわば、ホテルで出される典型的な朝定食という風であった。今や、ホテルの朝食はビュッフェスタイルが中心となっているが、お盆にのせられた朝定食も懐かしく、これがおいしく、一粒も残らないくらい綺麗に平らげてしまった。これで元気を取り戻し、思い出に残る食事となってしまい、この時もああ自分は日本人だと思い直した。
家では、毎日、白米、味噌汁、漬物、焼き魚など食べているが、飽きることはない。納豆、塩からなども食欲をそそり、日本食のありがたさを感じているところである。世界にはまだ見ていない、行ってみたい場所は数多くあるが、体力も低下し、食事のことを考えると、出かけようという気力も無くなっている。