高橋 美徳
東京オリンピック・パラリンピックがコロナ禍の中で開催された。多くの会場が無観客となり、自国開催でありながら、現場の観戦は関係スタッフとボランティアに限定された。
ハイシャは歯医者さんでも廃車でも配車でもない。敗者のことである。決勝戦で王者・米国に敗れたものの、銀メダルを獲得した車椅子バスケットボール男子チームの大躍進にテレビに釘付けになった。体格に合わせた車椅子を使うので、外国人選手との体格差は歴然だ。それでも勝機を見出したのは、京谷ヘッドコーチが取り入れたトランジション・バスケだ。得点できなくても、続くディフェンスに集中し相手に得点を許さない。オフェンスでの不成功を引きずらず、ディフェンスで頑張れば帳消しという考え方だ。しかしプレス・ディフェンスにはハードワークを越えたベリー・ハードワークが必要になる。チームはこの5年間、東京パラリンピックを目指して厳しいトレーニングを続けてきた。
今大会で特に目立っていたのは持ち点2.5の鳥海連志選手だ。片輪を持ち上げるティルティングで、大柄な外国選手にリバウンドで競り勝つ。4本指の右手でボールをコントロールし、羽ばたくように躰を振りながら、圧倒的なスピードで相手を振り切る。厚いディフェンスをすり抜けフェイントをかけ、倒れ込むのを恐れずゴールを決める。対コロンビア戦ではトリプル・ダブルを達成し、世界のオールラウンダーの仲間入りを果たした。5年前、17歳で代表入りの時から目を見張る成長を見せてくれた。日本チームの逞しさとやる気に魅せられた。
多くのファンがいるフィリピンのスケートボード選手が女子ストリートに参加した。マージリン・アルダ・ディダル選手は失敗しても決して嘆かず、笑顔を見せる。他選手の成功を共に喜び、失敗しても次はいけると勇気づける。-人生NEXT ONE-「スケボーは人生と同じで、何度失敗しても歩み続けるもの」と話す。
競技には勝者と敗者がいる。敗者には新たな目標が、勝者には一時の喜びとプレッシャーが残る。やってよかったオリンピック・パラリンピックになっただろうか?私は感情を揺すぶられ、スポーツには社会を変えられる力があると感じた。
(令和3年10月号)