新潟産業保健総合支援センター 所長 興梠 建郎
副所長 金丸 浩也
産業保健専門職 吉田 正子
労働者健康安全機構の補助事業を利用して今年度は「令和3年度産業医ネットワーク事業」として、「産業医活動の実態に関するアンケート調査」を行うことができました。予算の都合で今回は新潟市の産業医の先生方のみ対象と致しましたが、その結果についてご報告致します。
新潟地域産業保健センター事業では労働者健康診断結果の事後措置、長時間労働者への面接指導、高ストレス者に係る医師からの意見聴取などで多くのお申し込みがあるところですが、ご対応可能な先生が18名と少なく、事業者、労働者にお待ち頂く時間が長くなっていました。新潟市の小規模事業場(労働者50人未満)の数は約27,000社、労働者数は21万人を超えています。新潟地域産業保健センターでの意見聴取利用者は年間8,000人程度で、定期健康診断の有所見者率は55.5%ですので、労働者数に対するカバー率は6.7%にしかなりません。これでも手一杯ですので、新たにご協力頂ける人材の確保は喫緊の課題です。また、産業医の選任を求めている事業場から以前より多くの問い合わせをお受けしますが、産業医を紹介する公的な制度はないところです。
産業医活動は予防医学の一端で、特に働く世代の18歳以上65歳までの労働者をカバーしております。一般定期健康診断、特殊健康診断、人間ドック、その他さまざまな健康診断がありますが、その後の事後措置は事業の内容を理解している認定産業医に対応して頂くのが理想的でかつ効果的です。
新潟市内の認定産業医は約350人ほどです。事業場に行けば、会社のラインの表示が入り口に明記されてあるのをよく見かけます。「私は○○会社の産業医です」というのは産業医の先生の一つのステータスシンボルにもなると思っていますが、個々の産業医活動の実態は全くつかめていませんでした。そのため、産業医活動をされている先生方の状況を調査させていただきました。
さて結果ですが、回答率は55.7%で196人の先生方からご回答を頂きました。この種のアンケート調査からは非常に良い数字で、先生方の熱意を感じる数字です。調査期間が短かったことを考慮すればまだまだ多くの先生方からのご報告が頂けたと考えられます。
診療科別では内科、外科、精神科が多かったのですが、産業保健では筋骨格系、視力、聴力、出産と子育て、フレイル・ロコモ、世代を超えたメンタル問題、歯科保健と生活習慣病などがあり、多くの診療科の先生方に産業医資格を取ってご協力頂けると幸いです。
勤務先は、診療所の先生方が85人と最多でしたが、病院勤務の先生方も58人と2番目に多い数字でした。病院勤務の先生方には院外活動に様々制限がありますが、地域におけるご活躍も日本医師会、医学会全体が積極的に進めている課題であり、事業所訪問、地域産業保健センター事業、嘱託産業医活動などにご参加頂ければと思っています。多くの病院の長が認定産業医を取得されていますので、これからは是非院外活動にもご指導・ご理解を頂ければ幸いです。
事業場の嘱託産業医となっておられるのは、64.8%(127人)でした。また、28人の先生方から「今は産業医活動をしていないが依頼があれば協力できる」、地域産業保健活動にご参加頂けるという有難いご回答もあり、今回のアンケート調査が有意義であったと分析しております。
なお、地域産業保健センター事業に関わられている先生11名からご返事を頂きました。全体で18名の先生が地域産業保健センターに関られていますので100%ではありませんでしたが、今後もよろしくお願い致します。
「事業場での活動内容」(図1)は、職場巡視や衛生委員会への参加など幅広く行われておりました。「活動で困難に感じていること」(図2)は、時間がないが最も多いのですが、困った時の相談先がない、知識不足である、と感じておられる先生が多いこともわかりました。
産業医は横の繋がりが今のところ希薄で、情報交換会や最新情報の入手を求める多くの意見をいただきました(図3)。産業医活動をしていない、または、これからやってみたい先生方の「スキルアップしたい内容」(図4)は、定期健康診断の事後措置、就業可否判定や長時間労働者・高ストレス者面接指導などでした。当センターでは研修や専門的相談対応を実施しておりますが、まだまだご遠慮があるようです。他県では積極的に意見交換会を行っているところもあり、新潟でも研修会以外の意見交換会が持てればと思っています。新型コロナ感染症が消滅してこの様な会を持てる日がきっと来ると信じています。
調査目的のひとつである、産業医と事業場のマッチングについてもご意向を伺いました。当センターのホームページに産業医名簿を掲載することについては、「掲載してよい」「条件をつけて可能」は55.1%(108人)でした。産業医の選任を求める事業場にとっては有用な情報になると考えており、改めて掲載に係る調査を行わせていただきますのでご協力いただきますようお願いします。
フリー記載では多くの先生方から前向きのご意見を沢山頂き感謝しております。先生方の産業保健活動の熱意を今後の活動の展開に生かしていく所存です。
最後に、この調査に快くご協力頂きました新潟市医師会会長浦野正美先生、理事の細野浩之先生、新潟地域産業保健センター登録産業医の金子晋先生、(同)太田玉紀先生、新潟市の産業医の先生方に深謝申し上げ、ご報告とさせていただきます。
図1 事業場での活動内容(複数回答)
図2 活動で困難に感じていること(複数回答)
図3 どのような体制があれば活動しやすいか(複数回答)
図4 スキルアップしたい内容(複数回答)
図1〜4の結果は、小数点以下を四捨五入し表示
(令和3年12月号)