山﨑 芳彦
米国の一般家庭に招かれると、よく出されるのがビーフステーキである。アメリカの家庭でも、ステーキは代表的なご馳走なのであろう。肉に対する知識が深いわけではないが、よくアメリカの肉は量は多いが、大味で味はいまいちと聞く。しかし、あちこちでご馳走になってみて不満であったことは一度もない。アメリカでも、客人にステーキを振る舞うときは、スーパーの肉ではなく、それなりの肉屋で切ってもらうのだという。バーベキューハウス、バーベキューコーナーといった設備を備えている家も多く、大抵はそこの主人が肉を焼いてくれる。焼き方を注文すると、好みの焼き方に応じてくれ、肉を囲みながら会話を楽しむ。肉のほかに、2−3の家庭料理や果物なども出される。燃料はチャーコールとよばれる豆炭であることが多く、日本のような木炭はあまり見かけない。豆炭の時は網が用いられる。屋内では、ガスで焼かれることが多いが、鉄板は極厚のフライパンが使用されている。味付けは単なる塩こしょうがメインである。
しかし、アメリカのステーキや焼き肉も最近は様変わりしてきているという。日本の影響があるのかもしれないが、量よりも質を求めて高級志向となってきており、一部のブランド店は日本にも進出し始めている。値段も高騰し、かつてのものから比べると、信じられないほどになっており、それなりの肉を腹一杯食べるということも難しくなっているようだ。フランス、イタリアなどでもその土地のビーフにはこだわりがあり、牛のブランド、育て方、餌、肉の熟成の仕方、ソースの種類など綿密に管理されているという。こういった店はその土地で評判となり人気も高い。その点は、和牛と同じこだわりがある。和牛の肉を備長炭で焼いたものと比較したことがないのでわからないが、燃料から塩のブランドなどまでこだわった日本の肉も負けてはいない。
2021年9月の新潟市医師会報に、大滝一先生がイタリア紀行を載せており、これによれば、フィレンツェのレストランのディナーで出されたのがなんと、松阪牛であったとのこと。日本の和牛の、本場イタリアへの進出に驚いておられたが、この傾向をよろこぶべきことかもしれない。ロサンゼルスで使用していたフライパンは重さ2.2kg直径27cmとかなり重く、使用していると腕が痛くなる。しかし、熱伝導を広く均等に伝えるためのメリットがあるのであろう。
ロサンゼルス郊外のアパート近くにも、バーベキュー専門レストランがあり時々出かけたが、T-boneステーキの味ばかりでなく、ここのサラダバーには新鮮でいろいろな野菜が用意され、自分でこれを皿に取り、好みのドレッシングをかける。これも絶品で、ステーキによくマッチしていた。ロサンゼルス郊外には、こういった肉を扱うカントリー調のステーキ店が多くあり、雰囲気だけでも食欲をそそられる。今は自分も年をとって、美味しいステーキを腹一杯食べるということはなくなり、美味しいものを少しだけ食べて満足する方向になってきている。
(令和3年12月号)