山﨑 芳彦
渓流の代表的な魚はイワナ、ヤマメだが、これらは川に棲む時の名前で、海に下って大きくなり再び川に戻ったときは、アメマス、サクラマスなどと名前を変える。地方によっていろいろ呼び名があるが、海に下らず、川だけで暮らす場合は、イワナ、ヤマメの名前のままであり、ダム湖など大きな池では50cm以上にもなる。味は美味で鮭以上だと一般的にも人気が高いが、手に入れる手段が少ないなどで口に入りにくい。これらを手に入れるには川漁師らと知り合いになるか自分で釣りをする以外にないのではないか。大きなイワナ、サクラマスを知り合いからいただいたことがあるが、まさに絶品であった。養殖ものでも、5年ものは、特に味噌漬けにすると美味しく、鮭の比ではなかった。塩焼きは3年ものが一番だといわれ、養殖池で出されるものは多くが3年ものである。
約15年前、新発田市郊外に古民家を手に入れ、ガーデニングなどを楽しんでいるが、この敷地内を幅50cm位の清流が流れているのを見て、これを生かさない手はない、この水を導いて池を作ろうと購入を決心したものである(写真1)。この流れの源は加治川系の内の倉ダムから導かれたもので、複雑な経路を経て、当家に達している。水温はイワナの養殖条件である夏でも18度以上にならず、流れも途絶えることはまずはない。このためイワナを飼うには理想的だと、購入後すぐに10m2位の池を作ってもらった。深さは子供が落ちたときのことを考え、30cm位にしてもらった。ここはトンボのヤゴも棲めるようにと、水草なども大分植えた。こうして池ができあがった。さて、魚をどのように調達しようかと思ったが方法が思いつかない。あちこちの釣り堀や養殖池を回ったが、いずれも販売を断られた。ある日、村松の養殖池で、鯉、ニジマスなどの販売の広告があった。早速、赴いてニジマスを20匹購入した。大きなビニール袋に酸素を注入し、氷の塊を入れてくれた。急いで新発田市まで運んだ。この間30分くらい、到着するとニジマスは酸欠状態でプカプカ浮いていたが、池に放つと間もなく元気になり泳ぎだした。イワナなどは酸欠状態になりやすいのでこれを防ぐことが重要である。ニジマスが元気で泳ぎ出すのを見てほっとした。このまま元気で成長することを期待したが、実際はここから戦いが始まった。
はじめは順調に泳ぎだしていたが、1週間くらいするとみるみるその数が減ってきた。死んでいる様子も見えないし、どのような理由かと考えていると、どうもサギなどが近くにいるし、これにより捕られてしまうためと思われた。池の上をネットで覆うことはよく見ることなので、網目径10cm位のネットを張ってみた。これでも1週間くらいすると全く魚の影を見なくなった。ある日、アオサギが網の上に乗っかり、魚を捕ろうとしている場面を目撃した。網の目からくちばしを突っ込み、一瞬のタイミングで魚を捕ろうとしているところであった。よって、さらに小さな網目のものが必要と考え、これを購入し池全体に張った。ちなみに、径2cmくらいの網目ではイワナはすり抜けてゆく。従って網目1cm以下のネットが必要であった。これで鳥からの被害は守られると思った(写真2)。この間10-15cm位のウグイを50匹くらい、近所の池の主からいただいた。これらが、悠々と泳ぎ回るようすを見て心が癒やされた。
しかし、鳥による被害は防げると考えられたが、ある日ハクビシンが網の下で、溺れ死んでいるのを見つけて、これがイワナを捕ることを確認した(写真3)。何回かイワナを補給したが、やはり時間の経過とともに魚の数を減らしてゆく。そのうち、イタチ、狸なども目撃されるようになり、網の脇の方もしっかり防御する必要性を痛感した。そのうち、水路のメインテナンスのため流れが2-3日止まり、魚は全滅してしまった。これで、魚を生かし続けることは困難であるとあきらめた。以後は、必要なときに必要な数だけのイワナを購入する方針に切り替えた。本格的な水路の確保には、いつどの水路が止まるかわからないので、複数もうけることが必要なのだという。こんなことは山の中の家で無ければ不可能だ。池の大きさは、風呂桶ほどのスペースがあれば十分だと言うが、小さいときに共食いをするため、これも複数に分けて飼う必要がある。餌は市販の鯉の餌で十分である。イワナの仕入れ先が遠いので簡単に魚の補給というわけにはいかない。現在、囲炉裏が2カ所あり、炭も十分用意してあるので、魚さえそろえばいつでも炭火焼きを楽しむことができる。
イワナの養殖には、運搬時に酸欠にならないこと、このためビニール袋に酸素を封入したり、川魚専用のポンプで空気を送りながら運搬する。それでも我々が運ぶと1時間が限度である。イワナの塩焼きを食べるには、一般の人にとっては、養殖池に出かけて、その場で塩焼きを作ってもらうしかない。加工食品では、甘露煮などが作られ販売されているようである。自宅でBBQのように作ることは夢のような話である。イワナは旧朝日村の養殖業者から仕入れている。知り合いということもあり、通常の3分の1位の値段で、安くしてもらっている。結構遠いので、頻繁に養殖池まで行く訳にもゆかないので、魚がいつも備わっているわけではない。我が家でイワナの塩焼きを味わった方は運の良かった方だと思っている。ときどきイワナパーティーを開いて塩焼きを満喫していたが(写真4)、現在ガーデンは都合により閉鎖中である。
写真1 イワナを養殖している池。池の上にマス目10cmくらいの網をはってあったが、これくらいだとこのマス目の間からサギがくちばしをつっこむ。このため、今はマス目2cmのものに変えてある。
写真2 元気で泳ぐイワナなどの群れ、ウグイなども混じっている。魚がのんびりと泳ぎ回るのを見ていると気が和らぐ。
写真3 池の中の網からのがれられず、溺れ死んでいたハクビシン。
写真4 イワナの塩焼きを炉端で焼いている。頭の先から背骨、尻尾の先までこんがり焼けて食べられる。
(令和4年1月号)