永井 明彦
「オリガルヒまたギリシャ語が悪役に」朝日新聞の読者欄に載った川柳だ。ロシアのウクライナ侵攻が始まり、オミクロンから主役が交代してオリガルヒというギリシャ語(“寡頭制”の意、ロシアの少数の新興財閥を指す)を見聞きしない日は珍しくなった。旧ソ連の秘密警察KGBの情報将校だったプーチンは、政権を握るとすかさずメディア王と言われていたオリガルヒを逮捕し、グラスノスチに逆行して国内の報道統制を強めた。忠誠を誓ったオリガルヒは収入の50%を献上させられるが、ビジネスパートナーとなって利権を貪り、巨万の富を築いた。オリガルヒと一蓮托生となった独裁者の金満ぶりも凄まじく、総工費1400億円の「秘密の宮殿」の存在を反体制派に暴露されている。
ソ連崩壊後のロシアは、官僚やオリガルヒが政府予算や企業収益を中抜きや賄賂の形でピラニアのように食い荒らす“ピラニア資本主義”の犠牲になってきたという。我が国にも同様の縁故泥棒政治が蔓延っているが、大義なきウクライナ侵攻に反発した欧米諸国はオリガルヒの海外資産を凍結没収した。石油王アブラモヴィッチもサッカー英国プレミアリーグの名門、チェルシーFCを買収し、2270億円を投じて有数の強豪に変貌させたが、個人資産を没収され、チームは経営破綻の危機に瀕している。
サッカーと言えば、4年毎に開催されるW杯は前回ロシアで開催され、日本もベスト16に残って健闘した。今回の軍事侵攻でロシアは11月開催のカタール大会の欧州予選に参加できなくなり、多くの国際スポーツ大会からも排除された。スポーツ大国ロシアにとっては、国家ぐるみのドーピング違反に次ぐ汚点である。
猜疑心が強く強迫観念に駆られたPutalinによる狂気の侵略や大テロルの報道に接しながら、サッカー欧州選手権2012の決勝の地として各国サポーターを魅了したキーウ(キエフ)の歴史的な街並が、大きな破壊を逃れ、ウクライナ国民の犠牲が少ないことを祈るばかりである。