木村 洋
ふと流れてくる曲が耳に入ったときに昔の懐かしい場面や忘れていた記憶が一瞬にして、時空を超えたかのように思い起こされることがあります。そんな自分にとっての思い出のメロディー3曲です。
ベストワンはイギリスのポップシンガー、クリフ・リチャードの「レッツ・メイク・ア・メモリー」。中学時代淡い恋心を抱いていた人の家に友達と集まることになりました。しとやかな印象だった彼女が音楽に合わせてゴーゴーダンスかツイストか突然踊りだしたのにビックリ。彼女が大好きだと言っていた曲です。そして自分で初めて買ったレコードでもありますし、ポピュラー音楽に興味を示し始めたきっかけでもあります。中学・高校時代の思い出♪フォークダンスの手を取れば甘く匂うよ、黒髪が…♪。今もそのレコードは残っています。
ベストツーはカスケーズの「悲しき雨音」。大学生時代同じ下宿の同級生G君が好きだった曲です。70年安保闘争が終焉を迎える時代でした。私はビートルズやボブ・ディランに傾倒していましたし、ディランがあこがれたという漂泊の詩人ウッディ・ガスリーや映画「イージーライダー」に代表される当時のヒッピーのように自由奔放にあこがれを抱いていた時期でした。そんな頃でしたので、何と軟弱な曲をと思っていました。しかし、何度か聞くうちに感化され、雨音とマッチした曲調とイントロのメロディーが流れてくると、彼と音楽談義を重ねたことやオールナイトの映画を毎週のように見た後に語り合った下宿の風景と匂いが浮かんできます。♪Rhythm of the Rainどこで道に迷ったか、雨よもう降らないでおくれ♪その彼とも今は音信不通です。
ベストスリーは石川セリ「八月の濡れた砂」。後に日活ロマンポルノの旗手といわれるようになった藤田敏八監督の同名映画のエンディング曲です。東京の場末の映画館でオールナイト上映されていたものを見て、印象的なラストシーンが忘れられません。今は石川さゆりを始めとして、多くの歌手がカバーして、かなり知られるようになっている曲ですが、当時は全くの無名歌手でした。♪打ち上げられたヨットのように、私の夏は明日も続く♪その頃、卒業を控え、進路が定まらず、モヤモヤと悩んでいた時期と重なります。
あくまでも個人的感傷から選んだ3曲です。現在閉院し、趣味に生き、悠々自適の生活をと思っていますが、ゆっくり音楽を聴くこともせず、ダラダラと過ごしています。今は風呂場で懐かしの昭和歌謡を妻に聞こえないようにそっと一節唸って悦に入っています。地獄耳の彼女のことですから、何も言わないけれど下手な歌に苦笑していることでしょう。