中村 稔
あれは、S60年夏頃だったろうか?休日だったせいもあり、昼食は家族で焼肉をつついていた。ポケベルが鳴る。「20歳代の女性が出血多量でホテルから救急車で運ばれてきます。よろしくお願いします」20歳代の出血?ホテル?何考える?焼肉を半分も食べないまま病院へ。救急車は到着しており、病院の廊下は女性の出血で転々としていた。性器出血の様だということで内診をすべく指示。会陰部introitus5時方向に動脈性(拍動性)の出血点あり。局麻下に吸収糸で2針縫合して止血を確認。子宮、付属器には異常を認めず。貧血の程度を確認し、止血を今一度確認して退室とした。出血量は、来院して廊下に横たわる出血、婦人科診察室における出血、等を合わせて約300gと推測された。解剖学の文献によると、外陰および膣下部への血流は内腸骨動脈より分岐する内陰部動脈から、および大腿動脈から分岐する外陰部動脈から供給される。今回の事例は、このいずれかの動脈が性行為の最中に破綻し大出血となったと考えられる。
パートナーと思われる男性と女性の家族が待合室で談笑しているように見えた。男性に経緯を話した後解散した。婦人科の教科書にはあまり書いてない内容、二人の関係が悪いものでなかった可能性、地域性、時間、等から問題性が縮小したのかもしれない。
聞くところによると、このような症例は 県内の婦人科医の多くが経験しているらしい。婦人科医でなく救急の当番の先生が経験している可能性もあり。静脈性か動脈性か、断裂の程度、圧迫で止まるや否や、出血の場所等により誰が診るか決まるように思う。性行為の後(あるいは最中か…?)のトラブルでこれはびっくりというものの一つかもしれない。
産婦人科医というと、休日、夜間は分娩(お産)のための拘束と思われがちであるが、このようなある意味生々しい症例も経験するものだということを分かってほしく投稿してみました。
(令和4年10月号)