岡田 潔
前回の『イエスタデイ』に続いて、またタイムトラベル系の映画を紹介します。今回はタイムリープSFです。「タイムリープ」は「自分自身の意識だけが時空を移動する」という意味で、「自分自身の意識・身体がともに時空を移動する」と「タイムトラベル」らしいです。ふむふむ。
2006年にアメリカで作られた『イルマーレ』は、2000年の韓国映画のリメイク版です。女性医師ケイトは、湖岸に立つ一軒家のポストに、次の住人への手紙を残して引っ越します。その後、彼女が受け取った返事は建築家の青年アレックスが2年前に出した手紙でした。大人のタイムリープ・ラブストーリーで、SFっぽい設定ですが、わかりやすいシナリオなので、時間差とカット割りのバランスがうまく取れています。時をかけているようで、かけていない二人。2年の時間差がある男女を結ぶのは手紙だけ。ケイト役のサンドラ・ブロックは私が大好きな女優で、明るくて、キュート、例えば学生時代はチアリーダーでみんなの人気者っていう雰囲気の女性です。恋人役のキアヌ・リーヴスも最高にかっこいいです。ラストシーンにはハンカチを用意しましょう。ちょっと泣きたくて、そしてハッピーになりたい気分の時におすすめの映画です。
私がこの映画を知ったのは、ポール・マッカートニーの曲「ディス・ネヴァー・ハプンド・ビフォア」が主題歌として使われたからです。歌詞が映画のストーリーそのものなので、始めは書き下ろしかと思いました。アレハンドロ・アグレスティ監督は音楽にもこだわり、4ヶ月も検討して、ポールが2005年に発表したアルバムに収録されていた、シングルカットもされていないこのバラードを採用したそうです。元ビートルズだったポールのソロ作品ですが、文句なしにビートルズレベルの一曲です。というか、この曲、神がかっています。いつものように、すべての楽器をポールが一人で演奏しています。今、80歳の彼は全米ツアー中ですが、水も飲まずに3時間歌っているらしいです。
ケイトの誕生日パーティーの夜、アレックスが「この歌を?歌える?」と聞くと、ケイトは「私の歌を聴いたら後悔するわ、でも踊れる」と答えます。二人を結び付けたその曲が、安定のマッカ!
私生活では3度結婚しているポールですが、2回目のヘザー・ミルズとの結婚は、4年目で泥沼の離婚裁判になりました。その真っ只中、彼が63歳の時に発表されたのが、このラブソングです。果たして、これはヘザーのことを歌っているのだろうか…
(令和4年10月号)