田村 紀子
私は両親が教員の共働きだったため、小学校に入学するまで日中は祖母と双子の妹と3人の生活だった。そのため幼少期の記憶は祖母に関することが多い。国民皆保険の体制が実現し義務化したのは昭和36年4月からとのこと。私の幼少期はその移行期にあった。簡単に医者に診てもらえなかった時代を生きてきた祖母は、民間療法を信じていた。
①マムシの皮:山菜取りや下草刈りなどに祖母は私達を連れてよく山に入った。必死に祖母を追いかけて山道を歩いていたある日、マムシを踏んだ祖母はマムシの頭を持ち、皮を勢いよく剥いだ。私の記憶はそこまでだ。でも、その後焼いた皮を食べさせられた記憶があったので、その前後のことを妹に電話して聞いてみた。「皮は近くの木の枝に刺し、帰り道に回収し、納屋の竿につるして干して、七輪で焼いて粉にして私たち食べたよ。食べると風邪ひかないからって」「本体?茂みに放り投げていたと思うよ」とのこと。蛇の大嫌いな私はよく覚えていない。山で半分気を失っていたのかも知れない。
②赤唐辛子を燻し、部屋に煙を充満させる:初冬のある日、かまどに唐辛子をくべて、煙を充満させた。「風邪の神様を追い出すため」とのこと。先日テレビで五箇山でも似たようなことをしていたので、ダニや虫に対してバルサン的に働いたのかと思う。
③湿布:水に小麦粉を溶かし、少量の酢を入れて練って、薄い布に塗り、湿布として利用。田植えや畑の耕作後に祖母はよく作って足や腰に貼っていた。剝がすときは乾いていてきれいにはがれ、臭いもなく重宝していた。
④麦粒腫に藁:藁を1本輪にして火をつけ、麦粒腫側の目に近づける。「めもらいめもらい、わら(わりゃ?)なんくくる、めもらいくくる」と唱えたところで、藁がパチンと鳴って火が消えたら麦粒腫は治る。鳴らなければ治らない。鳴った場合は不思議だが翌日には良くなっていた。プラセボ効果だろうか。
⑤ウシガエルのもも肉:鶏肉風でおいしかった。蛋白源だ。
⑥ヤツメウナギ:視力が良くなると言われた。七輪で焼いたものを食べさせられた。渋くて苦くてまずかった。ビタミンAが豊富だから確かに網膜には良い食べ物だ。
⑦ハチさされ:刺された場所に、磨った墨で「九」と書く。活動的だった妹はよく蜂に刺されたため祖母に書かれていた。墨の防腐剤に殺菌効果があるという説もあるが、汚れた手で触れないよう、二次感染を予防したのかも知れない。八より九が強いという意味らしいが、座布団1枚だ。
そんなこんなで大きな病気もしないでこれまで生きて来られたのは祖母のお陰だと思う。今、私はあの頃の祖母と同年代になった。しかし、いくら孫の健康のためとは言え、私は生きているマムシを見たら皮を剥ぐどころか逃げ出すと思う。おばあちゃん、本当にありがとう。
(令和4年10月号)