勝井 丈美
「世界自然遺産」父島の美しい自然に触れて、ミュージシャンたちがインスパイアされていく、ドキュメンタリー映画を見て以来、ずっと父島へ行ってみたかった。今年の7月、友人を誘い父島へ5泊6日の旅をしてきた。
仙台港からクルーズ船「日本丸」に乗船し、40時間かけて父島へ。父島の港は水深が浅いので、日本丸は岸壁からかなり離れた湾内に碇泊し、父島への行き来は漁船による通船だった。
父島では2日間とも地元のガイドが案内してくれるツアーに参加した。1日目は「固有種の自然観察ツアー」、2日目は「歴史探訪ツアー」。両日ともに晴れて31℃の天候の中、林道を歩いたり、登山したりで少々きつかったが、久しぶりの遠足気分を味わった。
父島には、かつて人間が持ち込んだヤギとネコが逃げ出して野生化した、野ヤギと野ネコが今も生息しているとガイドから聞いた直後、立派な角を持つ野ヤギの親子が目の前の崖上に現れた。野ヤギは悠々と草を食べていた。
野ネコはアカガシラカラスバト(固有種で絶滅危惧種)を襲って食べるので、森の中には野ネコ捕獲用ケージが置かれていた。捕獲された野ネコはどうなるかというと、ネコハウスに収容され一定期間、人間社会に馴化させるべく訓練を施すとのこと。私たちのガイドはその活動をしている人であった。野ネコはその後、東京の保護センターへ移送され里親探しされる。
世界自然遺産の認定要件に、地道な自然保護活動が不可欠なことを忘れてはならない。アカガシラカラスバトも野ネコも、どうか幸せにと祈りつつ、夕暮れのマジックアワーの中、父島を後にした。5隻の漁船がかなり遠くまで伴走して日本丸を見送ってくれたことも、うれしかった。
(令和5年10月号)