永井 明彦
8月5日の猛暑の夜、新国立競技場で行われたサッカーJ1アルビレックス新潟対名古屋戦のアウェー応援に馳せ参じた。だが、白馬に跨がった愛知県出身のマツケン家康率いる尾張名古屋のグランパスに、アルビはウノゼロで敗れてしまった。負けた口惜しさを引き摺りながらも翌日、六本木の国立新美術館で開催中の“光”をテーマにした「テート美術館展」に立ち寄った。
『創世記』によると、神が最初に行ったことは光の創造であり、聖書の中では、光は善・真実・純粋を表し、闇は悪や破壊を意味する。英国近代美術史では、ロマン主義の画家、ウイリアム・ターナーが象徴的な意味を持った光を描き込み、光と闇の相互作用を用いて精神的な主題を表現しようとした。テート美術館でなくナショナルギャラリーにある彼の有名な『雨、蒸気、速度―グレートウェスタン鉄道』は門外不出で、実物を観ることは叶わないが、光の画家と言われたターナーの絵の秘密がよく解る展覧会だった。
そして、旧盆の次の日曜日、新潟市民芸術文化会館のりゅーとぴあで、にいがた東響コーラスのバスの一員としてメンデルスゾーンの交響曲第2番《讃歌》を唱った。会報編集委員長の笹川基先生や県労衛医協の諸田哲也先生、テナーの笹川富士雄先生も参加されたが、この交響曲カンタータのテーマも“闇から光へ”である。第7曲「夜は過ぎ去った」で感動的に繰り返されるフレイズWaffen des Lichts(光の武器)は『スターウォーズ』のlightsaber(光の剱)だと指揮者の鈴木優人さんが嬉しそうに話していた。
そういえば、ゲーテの臨終の言葉とされるMehr Licht(もっと光を)!は義父の好きな言葉だった。主宰した教室の先生が医局を離れる際などに色紙に書いて贈っていたようだが、生前の義父にとって光は何だったのだろう。脳外科手術の手術野がもっと明るければという思いもあったのだろうか。ともあれ、COVID-19という長く暗い闇が消え去り、光り輝く新しい世の中が来ることを待ち望む昨今である。
(令和5年10月号)