石塚 敏朗
20年も前、NHKのTV録画で戸隠忍者の稽古を見たことがある。その時、不思議に思ったこと。相手が刀で上段から斬りかかってくると、すらりと左脇へ移動したのだ。普通に真っ直ぐ進んでいたのが、まるで消えるように。戸隠流第三十四代宗家初見良昭である。自分だったら床を蹴るしかない。だから記憶に残っていた。
腰が曲がり筋力がやせてしまった老人の今、自然で楽な歩行法はないか、眼前の大目標だ。YouTubeで多彩な画像が見られる時代になって、特に合気道を沢山見ている。こうした中、戸隠の忍者のように相手の横脇へ、まるでスケートで滑っているみたいに自然に移動している画面に出合った。
「どうしてこんな風に出来るのだろう?」
先日、合気道のある師匠が弟子のために、技を丁寧に解説している画面に出合った。合気道に無縁な自分でも、動作を分解して体捌きを具体的にやってみせる実技指導は判りやすかった。合気道は相手を倒すための所作だが、今の自分にとってはすんなりした歩行が出来るかどうかだ。これまで知ることの出来なかった秘密にワクワクする。
練習にかかったら、すぐに似たような操作が出来るようになった。技を分解してみると、3つの動作の連続であった。
①まず全身の力を抜き、かつ無心で立つ。余分なことを考えると自分の体が固まってしまうからだ。
②足を一歩前に出しながら膝の力を抜く、骨盤が前進する。「膝落」という操作で既に体得しているからこれは簡単だった。次に床に添って凹状のラセン形曲線を意識しながら前へ。ここが今回の学習の目玉である。
③ラセン状の動きが終わり、次への前進で自然に膝が伸び体が浮き上がる。まるで新品の布団の上を歩いているみたいに清々しい。
講師が特に勧めたこのラセン式移動とこれまでのナンバ式歩きとを合体させたのだが、前に較べてずっと歩行が楽になった。手押し車でも合格。
だが翌日、臀部と下肢の筋肉痛が急増。年寄りの木登り。
(令和5年10月号)