伊藤 隆
もうかれこれ30年ほど前のことである。会議で訪れたヨーロッパから赴任地のマニラへイタリアのローマを経由して戻った。一人旅であった。以下の出来事はローマの空港で実際に起こった話である。
夕刻、ローマ発マニラ行きの飛行機に乗り込んだ。そろそろ出発かなと思ったとき、機内アナウンスがあった。この飛行機に爆弾をしかけたという電話があったというのである。ついては安全を確認するまで出発できないと言われた。飛行機に乗り込む前、空港内のバーで飲んでいたが、もう一度戻り、ご主人に「いやー、すみません。また戻りました」と言い、二度目の滞在となった。
その間、機内を調べたことはもちろんと思われるが、それに加えて一人ひとりのスーツケースを確認するので、滑走路に出るように言われた。準備ができたというので外へ出てみると、飛行機の横に乗客のスーツケースがずらっと並べられていた。一つひとつの荷物を指さし持ち主を調べるのである。ローマはヨーロッパでは南の方であるが、1月の風は冷たかった。
無事に安全確認が終わり、もう一度機内に乗り込んだ。先頭からパイロット、客室乗務員、続いて乗客たちがぞろぞろと中へ入った。
私はかつてよく飛行機に乗ったが、いろいろなことが起こる。私がマニラに赴任していたとき、一緒だったある先輩から聞いた話である。その先輩はマニラから香港へ向かっていたが、途中飛行機が突然急降下してあっという間に海面が迫ってきて、酸素マスクが一斉に降りてきたそうである。これまでかと覚悟を決めたが、その後持ち直して、無事に香港へ到着したとのことであった。
お天気もよく、快適なフライトであれば楽しいものであるが、激しくしかも長く揺れていると、もしかしたらと思いとても怖い。心の中で神様、お許しください!と叫ぶ。以前、おしゃべり好きな関西のある医学部教授とラオスに出張に出かけたが、「私は揺れに弱いので、揺れるとお話どころではなくなるので、会話が途絶えるのですみません」と申し上げた。その方は関西のアクセントで「せんせ! せんせ!!」と話しかけ励ましてくださり、何とか恐怖を感じることなく過ごせた。
最近はコロナもあり、飛行機はおろか新幹線にも乗っていない。年齢的なこともあり、今後、乗り物に乗ることはますます少なくなると思われるが、もう一度くらい乗りたいものである。
(令和5年10月号)