浅井 忍
この夏、新潟市中央区の平均気温は平年より4.1℃高い30.6℃で、8月の全国最高を記録した。原因は地球規模の高温や太平洋高気圧の強まりやフェーン現象などだという。日本に限らず世界中で顕著となった今年の猛暑を、国連事務総長は「地球沸騰化」と表現した。気候崩壊という言葉も使われた。
海水には数千年かけて地球全体をめぐる大きな流れがあるという。別名、熱塩循環とも呼ばれている。このうち、大西洋の南北方向への流れは「大西洋南北熱塩循環(AMOC、Atlantic meridional overturning circulation)」と呼ばれ、塩分濃度や水温の差によって生じる。AMOCは表層の温かい海流が北に送られ、グリーンランド沖で熱を放出すると冷却され低層へ沈み込み、南に戻ってくる。温められて表層に上がってきて、再び北に向かうという循環を繰り返している。AMOCは地球規模で熱を運ぶため気候に大きな影響を与えているが、ここ数年、温暖化の影響などによって循環が弱まっていることが報告されていた。ただ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(2021年~22年)では、AMOCが21世紀中に停止する可能性は低いと予測されていた。しかし、コペンハーゲン大学の研究チームは、今年7月、早ければ2025年にAMOCが停止する可能性が高まったと報告した。2年後に私たちは想像したことのない光景を見ることになるかもしれない。
2050年までに二酸化炭素の排出量を差し引きゼロにしなければならない。それが達成されなければ、地球の気温の上昇を止めることができないというのが、カーボンニュートラルの考え方である。そのような危機が叫ばれてすでに数年が経過したが、地球規模の対策は進まず、二酸化炭素の排出量は減る気配をみせていない。
近年、気候のあまりの苛烈さに私たちは戸惑いそして恐れている。人類は気候変動を止めることができないのではないかと、私たちは思いはじめている。熱塩循環が止まろうが止まるまいが、もはや、ティッピングポイントを超えて地球は取り返しのつかないところにきてしまっていると、多くの人びとが感じているのではないだろうか。
(令和5年10月号)