浅井 忍
入院して文庫ばかりを読んでいた。単行本は嵩張るし寝て読むには重い。最もお世話になっている新潮文庫の本文の紙質は薄いように思う。特に裏に画像が印刷されていると、画像が透けて本文の文字が判読しづらい。新潮文庫は他の文庫に比べて、裏のページが透ける度合いが高い感じがする。表紙カバーも紙は薄い。読み進むとカバーの背の部分の印刷がこすれて、深部の印刷の色が見えてくる。本を読む上で多少の劣化はしょうがないが、新潮文庫の劣化は特徴がある。
たとえば、『広重ぶるう』(梶ようこ/新潮文庫/2024年)は506頁の厚さだが、読了時、背から溝にかけてカバーの印刷が擦れて剥がれている。さらに、いま読んでる『この世にたやすい仕事はない』(津村記久子/新潮文庫/2018年)は、424頁の中編小説だが、まだ120頁というのにカバーの印刷がはげかかっている。甚だ心細い。新潮文庫にも、厚いしっかりした紙を使っているものもある。カラー写真が多く使われいる、『フランス革命の女たち 激動の時代を生きた11人の物語』(池田理代子/新潮文庫/2024年)が、それである。
ページをめくった直後、内容にしっくりこない場合、1、2ページを飛ばしていることがよくあるが、とくに新潮文庫に多い気がする。小説が最終盤に差しかかると、慌てて複数ページを捲る粗相をしがちだ。
新潮文庫は本の背の上端に糊付けされ本の中に折り込まれたひも状のもの、しおりとか、しおり紐とか、リボンとか呼ばれるものがついている。紙が頼りないのに、扱いが厄介なしおりははっきり言って邪魔である。取り付けるのに百円もかかるといわれるしおりは、今や新潮文庫独自の装備になったが、巷間、蛇足とささやかれている。ちなみに、文庫のカバーを剥がしみると、そこには頼りない姿の裸の文庫がある。数ある文庫を裸にしてみたが、新潮文庫は最も凛々しいと思う。
(令和6年4月号)