髙橋 美徳
体長2.2メートル、体重300キロのヒグマが駆除された。2019年からの4年間で66頭もの乳牛に被害を出したヒグマは、最初に被害が発生した場所(北海道標茶町オソツベツ)と前足跡の横幅18センチメートルからOSO18(オソじゅうはち)とコードネームで呼ばれていた。ヒグマ捕獲のエキスパートたちがプロジェクトチームを組んで対応にあたっていたのだが、その並外れた用心深さから「忍者グマ」とも呼ばれ、罠をはじめあらゆる手段から逃れてきていた。そのOSO18が、ヒグマ駆除は初めてという釧路のハンターの3発の銃弾であっけなく死んだ。駆除されてしばらくはOSO18とは気づかれず、細かな調査をなされずに精肉加工会社で加工され市場に流通した。
ヒグマは食肉目に分類され、もともとは肉食獣であったが、進化の過程で植物食化が進み、その生息域を拡大したと考えられている。植物食が中心のヒグマがなぜ乳牛を獲物として襲うようになったのか?山沿いの空き家が増えて野生動物と人間との境界が狭くなったこと、1990年からの春グマ駆除中止により個体数が増加したこと、エゾシカが増加し山の植物を食べてしまい、食物を求めてヒグマが農地に降りてくること、駆除されたエゾシカの死骸を食べてヒグマが肉食を覚え、乳牛を襲うようになった可能性があることなどが挙げられる。
2023年度のクマによる人身被害件数は197件、死者6人を含む218人に上り、過去最多となった。東北6県と北海道、新潟県の知事らのクマの指定管理鳥獣への追加指定の要望を受けて、環境省は四国地方を除いてクマを指定管理鳥獣に追加するための省令改正手続きを行い、クマが冬眠から覚める4月中に施行する方針だ。クマが指定管理鳥獣に追加された場合、クマはニホンジカやイノシシと違い個体数が少なく繁殖力が強くないことから、過度な捕獲を行わない姿勢も明示し、管理を担う人材の育成も盛り込む。
クマは山に、ヒトは里に、の定めが守られれば良いと思うが、さらに温暖化が進んで山に食物がなくなれば、生きるために境界線を越えて来る可能性は高い。
狭いボーダー領域を挟んでの共存は、双方に被害を出さない事は難しい。
(令和6年4月号)