植木 秀任
一昨年秋に放送されたNHKの「ブラタモリ」は「フォッサマグナ」を扱うテーマで、糸魚川市を訪れるという番組であった。まず一行が訪れたのは根知地区で、そこに糸魚川―静岡構造線が家の中を通っているというお宅があり、しかも敷地内に構造線を跨いで東西に井戸があって、水の味の違い(東は硬水、西は軟水)を皆で確かめるという場面があった。画面を見ていると、そのお宅には体育館のような広い建物があり、大きな樽らしき物がいくつか並んでいた。酒蔵か?
7~8年前にワインの評価で有名なパーカーポイントの日本酒版のランク発表があり、根知の酒蔵が高得点を得ていた。番組ではそのお宅の主人が蔵と同じ苗字で呼ばれていた。あそこに違いない。なぜ番組で触れない?酒造りはどちらの井戸水を使うのかも気になる。番組としても格好の話題だろう?そう思って見ているうちに番組は終わってしまった。
約2週間後、デパートに寄った際に偶然にもその酒蔵の臨時出店を見つけた。販売員に聞くと、確かにタモリ氏一行の来訪があったという。しかし、彼がCMで出ている某ビールメーカーとの契約の関係で酒の話題はスルーされたらしい。では、どちらの水を使っているのか勢い込んで聞くと、彼女は手元のタブレットを調べながら「えーと、ユーラシア側だそうです」と答えた。「ユーラシア側?フォッサマグナの西側か東側か聞いているのに」と問い詰めたが「わかりません」と申し訳なさそうにしている。ちょっと不満顔で四合瓶を2本買って帰った。後日、友人にその話をすると「ユーラシアプレートは西側だよ。東側が北アメリカプレートだろ。番組で言ってたよ」と言われた。酒造会社の話題が出て来ないことばかりに気を取られて、後の話を全く聞いていなかった。それなのに偉そうに店員を問い詰めて…
昨今、日本列島を囲む地殻変動の話題が出るたびにあの時の傲慢を反省している。
(令和6年4月号)