佐々木 壽英
2024年も猛暑が予想される。猛暑の時には、厳冬の景色を思い浮かべるのも一興であろう。
2015年2月3日にデジタルフォト研究会の仲間と厳寒の美ヶ原へ撮影旅行に出かけた。2泊3日の旅で、山頂の王ヶ頭ホテルに宿泊した。ホテルの玄関横の休憩所には大きなストーブが赤々と燃えて上の容器から湯気が出ていた。外気温が低下した時に霜の結晶ができやすくなるようホテル側の配慮であった。ホテルでは、偏光フィルターを装着して霜の結晶を撮影するとブルーがかった美しい写真が撮れると解説し、その写真がロビーに飾られていた。
快晴の翌朝、八ヶ岳連峰からの日の出を撮影してからホテルの裏側にまわり、虹色に染まる雲海と北アルプスを撮影した。ホテルに帰ると、夜の気温が零下13度となったため、玄関とロビーのガラスには様々な形の霜の結晶ができていた。ストーブにあたって暖を取りながら、霜の結晶を何枚も撮影した。
帰宅して霜の結晶の写真を現像している時に、グレーの霜の結晶に果たして赤緑青の色彩が含まれているのだろうかという疑問が湧いてきた。それは、偏光フィルターを装着することでブルーの色を引き出している写真を見たからであった。霜の結晶に色が含まれているならば、その色を引き出して、霜の結晶を色彩豊かに表現できないかと考えた。
デジタル画像の基本的現像であるレベル補正とトーンカーブによる現像を行ったが、グレーの濃淡が変化するだけで、色は現れなかった。
そこで、このグレーの結晶に各種の色が含まれていることの原理を調べてみた。
目の網膜には、明暗を識別する「桿状細胞」と3種類の色(赤R・緑G・青B)を認識する色センサー「錐状細胞」が存在する。「桿状細胞」が認識するR・G・Bの光は夫々波長が異なる。この波長の違う三原色が混ざると白色に見える。一方、色相環12色の中心にあるのは黒色で、R・G・B各色を同じ濃さで混合すると黒色になる。
グレーは白色と黒色が混合されて出来たものであり、グレーは白色と黒色の両者から3原色を受け継いでいる。そのため、色相環12色のすべてを内に秘めていることになる。
検索の結果、霜の結晶は肉眼ではグレーに見えるが、実は内に多彩な色を秘めていることが分かってきた。
霜の結晶に秘められた色彩の展開
次の段階は、結晶からどのようにして色を引き出して、芸術作品に仕上げるかという問題になる。画像処理上で色を取りだして再現する方法には、レベル補正とトーンカーブがある。
レベル補正は直線的な一次元の世界で、光の明暗をコントロールする。トーンカーブは、二次元の面の中でR・G・Bの各色を使い、それぞれの補色を考慮して多彩な色を表現できる。
霜の結晶に秘められたこの色彩を、如何にして画像上に引き出すかは技術的な問題となる。
そこで、トーンカーブに含まれるR・G・Bの各色のトーンカーブを用いて画像処理を行ったところ、結晶に多彩な色が載ってきた。グレーの中に確かに3原色が含まれていることが分かった。
先ず、3色の各トーンカーブを大胆に操作し多彩な色彩の画像を描出し、次にレベル補正を行うことで更に色彩豊かな画像を無限に描出できる。現像途中に、芸術的と思われる画像を瞬時に判断して、保存することが重要となる。
次のページに載せた作品は、王ヶ頭ホテルと奥飛騨温泉の新穂高ロープウェイ山頂駅で撮影した霜の結晶のうち芸術的と考えた作品である。「霜の結晶画像の原画」と「3色のトーンカーブを駆使して作成した色彩豊かなカラー画像」を上下対比して載せた。
これらのカラー画像は、霜の結晶内に秘められた色をトーンカーブとレベル補正を駆使した現像処理によって、引き出し再現したものです。これを見ると、トーンカーブが「魔法のカーブ」と言われる所以が分かります。
ガラスの表面に霜の結晶ができるのは、厳寒の朝です。この機会に恵まれたなら、是非ともJPEGでなくRAW画像で写真に収めておきたいものです。
美ヶ原などで撮影した霜の結晶10枚の原画から得られたカラー画像各5枚と霧の裏磐梯で撮影した蜘蛛の巣の画像1枚からのカラー画像4枚を集めた合計65枚で写真集『霜の結晶に秘められた色』を2024年1月に製作した。