浅井 忍
週1回、バスで郊外の病院に通っている。脳梗塞を患い車の運転を禁じられているからだ。と言っても、禁止を直接に告げられた記憶はないが、不本意ながらそういうことになっている。自宅を出て数分のところにあるバス停から乗車しバスセンターに行き、始発の新発田行きに乗り換える。私の座席は右側前方と決めているが、早春のこの時期は座席に日が当たるので、左側に変えたほうがいいかもしれない。バスには気になる数名の乗客がいる。
最初に紹介するのは、始発に乗る50歳過ぎと思われる女性だ。ツバの広い帽子をかぶって派手なブラウスにパンツを身につけ、緑色のスプリングコートを羽織っている。後部の座席に座る。市の中心部でバスは満員になるが、その後、客は少なくなっていく。彼女は阿賀野川の鉄橋を過ぎたあたりで降りる。仕事は何しているのか気になる。
次は明石通りから乗る事務員風の背の高い女性である。黒か紺の地味なツーピースを着ている。年齢は40歳前後で、県立大学前で学生とともに降りると、学生の後を追うよう進む。大学の職員かもしれない。4月のダイヤ改正の影響を受けて、女性は3月までは私の席の反対側に腰掛けていたが、バスの本数が減ったため座れないで立っている。
蒲原町から乗る青年は運転手の後ろに陣取る。吊り革に全体重を委ねたり、脚を不自然に交差させたり、尋常でないほど落ち着きがない。それを運転手に注意されたことがあった。バスを降り歩道をバスの進行に沿って歩いていた青年は、運転手に向かって頭を下げた。
県立大学に車椅子で通う女子学生は大形本町から乗車する。運転手は昇降口の段差に金属製のスロープを敷かなければならない。そのあと車椅子が動かないように木製のブロックを車椅子の車輪の前後において固定する。雨の日に乗り合わせたことはないが、雨の日は女性も運転手も難儀だろうと思った。
バスでの通院はもう数回で終わる。入院中も通院している今も、作業療法士の女性にビデオのシミュレーターで運転を指導していただいた。先週、自動車学校で路上試験を受けたところ、試験官に何の問題もないと告げられた。そのことを免許センターに連絡をして特段のことがなければ、路上を気兼ねなく運転できる。それにしても、気になる乗客たちに会えなくなるのは淋しい。
(令和6年10月号)